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- 第6回
友人のなべやかんは、芸人として活躍するだけじゃなく、自らお笑いライブを主催しているのですが、彼もまた他の芸人が出ている時に舞台の袖から、客をよく見ています。
そうすることで、自分の中にはない感覚を取り入れることができてきます。
「今ここにいる自分の視点」ではない視点で物を見る能力を私は「メタ視力」と呼んでいて、この能力は意識しないとなかなか身につきません。
メタ視力については、拙著『クズが世界を豊かにする』(ポット出版)で触れているので参照していただくとして、この能力の乏しい人が他者と自分の区別がつかなくて、無意識の盗用をしてしまう傾向が強いように私は見ています。
●他人の視点を得る嗜好の違いを読む
接客業においても、他者の視点を得るのはとても重要で、さもないと客を充分に理解することができません。
風俗嬢という仕事は、その能力が必要であるとともに、その能力を鍛える格好の手段でもあって、意識的に取り組めば、「人はそれぞれ違うのだ」ということをよーく理解できるようになります。
よく新人風俗嬢が困惑しがちなのがここです。
今までの経験から得た法則を疑わないため、客の求めるものが見えない。
男はフェラチオをすればことごとく喜び、射精しないと満足しないものだと思い込む。
中には男は誰もが本番をしたがると思い込んで、自分から誘いかけて嫌われる。
事実、多数の客はフェラされれば喜ぶわけですが、そこにさしたる重きのない客もいます。
私もそうです。
客は一人一人違っていることをイヤというほど実感できるのがSMです。
M男さんたちは多様です。
マニュアルでは対応しきれない。
一人一人の嗜好を読み取る体験を積むには女王様という職種ほど適切なものはなく、事実、女王様にはこの能力に長けた人が多いものです。
他者を読む能力を身につけるために、また、自分の考えを疑うために、一度女王様をやってみるのも手かもしれない。
面白すぎて、他の業種に戻れなくなるかもしれないですが。
文 = まつざわくれいち/1958年生まれ。『エロスの原風景』(ポット出版)、『風俗お作法』(小社)など著書多数。
イラスト = 友沢ミミヨ