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- 第10回
「でも、客がいるのかよ」
「いたよ。地震の当日は一人だけだったけど」
「常連さんが心配して呼んでくれたとか」
「違う、違う。初めての人」
これは意外です。
「あの地震の日に遊ぶとは、ある意味、大物だな」
「その日だけじゃなくて、そのあとしばらくそうだったんだけど、おかしな客が多かったんだよ。なんか切羽詰まって必死なの」
「この世の終わりの最後の一発みたいな」
「そんなカンジだったね。わりと長い時間とってくれる人も多かった」
この気持ちはちょっとわかります。
明日、どうなるかわからない状態だと、一人でいるのは心細い。
まして停電の中、一人でいるのは大人の男だって恐い。
「こんな時に一緒にいてくれるのはいないものか、そうだ、デリヘルを呼ぼう」ってことでしょう。
「そういう客は大事にした方がいいよ」
「なんで?」
「今回の災害は原発のせいで相当長引くから、そういう客はずっと不安なはず。この状態はストレスが溜まるから、リピートしてくれるかもよ。それと、この時期は一人一人を丁寧に拾っていかないと干上がるよ」
●いつもより褒めたり、自信をつけてあげる
不安を抱いている人はやっかいでもあります。
攻撃性が強まりますから。
皆さんの周りでも、カリカリしている人たちがいないですか?
そういう人には近寄らないのが賢明ですが、客だとそうはいきません。
思い切り、寛大になることです。
人間は不安な時に自分を否定されるといよいよ不安になり、その果てに暴発するので、いつも以上に褒めたり、自信をつけてあげる工夫が欲しいもの。
こんな時に出会えるのは運命みたいなものですから、うまく相手の不安を取り除ければ特別な存在にもなれそうです。
別のヘルス嬢に聞いたところによると、お金をやたら使う人もいるみたい。
不安とストレスが高まりすぎて自暴自棄になっているのかも。
そういうお客さんには優しく「格納容器がカラになっちゃいますよ」と言ってあげましょう。
「すっごい、もうメルトダウンしそうですね」とか「制御棒、大きい」とか「内部圧力が高まっているので、ベントしましょうね」とか「私も冷却水が漏れてきた」とか。
怒る人もいるので、相手を選んだ方がいいですけどね。
文 = まつざわくれいち/1958年生まれ。『エロスの原風景』(ポット出版)、『風俗お作法』(小社)など著書多数。
イラスト = 友沢ミミヨ