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- 第11回
●風俗は「癒し産業」
なんて暗い話ばかりしていると気が滅入りますので、ちょっと明るい話でも。
実のところ、私が聞いている範囲では、風俗店はそれほど深刻ではないみたいです。
これも地域や店によりけりではあるのですが、地震の直後は客が減っても、それ以降は客が戻ってきています。
飲み屋と違って、風俗店は「不安産業」の側面があるってことなんだと思います。
「癒し産業」と言ってもいいですが、不安の解消をしてもらいたい。
自分の弱さを晒せる場所が風俗店だったりする。
彼女や妻には見せられない性癖を晒せる。
それを晒すことで、風俗嬢は唯一自分を理解している存在になって、強い信頼関係が生じることがあります。
私の単行本のどこかに出ていますが、父が亡くなって泣きそうになっている時に、もっとも会いたいと思ったのが馴染みの風俗嬢でした。
彼女の前だったら泣ける。
実際には泣かなかったですけど。
私の担当編集者でアルコール依存症がいて、通院している病院に行ったら、患者が詰めかけていたそうです。
つまり、精神的にまいっている人たちが大量に出てきている。
風俗店は精神科と一緒。
飲み屋にもそういう機能はあって、その傾向が強いタイプの店は震災の影響をさほど受けていない。
しかし、客がカッコつけるために行く飲み屋はこの時期は厳しい。
どうもそういう傾向がありそう。
これがまた面白いところなのですが、SMクラブの中には震災以前より客が入っている店もあります。
SMなんて趣味は後回しでよさそうですが、SMクラブはもっとも不安産業の側面が強い。
誰にも見せられない自分を晒し、すべてを語れる。
同じSMというジャンルでも、フェティッシュバー、SMバーのような飲み屋は一般の飲み屋と同じように客が落ちています。
こちらはSMをネタに、皆でわいわい騒ぐ要素が強いのですね。
一対一の関係を築くSMクラブとは違います。
前回書いたように、今風俗店に求められているのは不安の解消であることがいよいよはっきりしてきたと言えそうです。
その意味でも風俗店は自粛してはいけません。
文 = まつざわくれいち/1958年生まれ。『エロスの原風景』(ポット出版)、『風俗お作法』(小社)など著書多数。
イラスト = 友沢ミミヨ