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- 第13回
●ドラムサークルの阿吽の呼吸
また原発のことで申し訳ないのですが、最近、デモに凝ってましてね。
原発についての講釈を垂れようとは思わないので、ちょっとおつきあいいただきたい。
若い頃はデモが好きで、よく参加していたのですが、昨今の新しい動きにサウンドデモというのがあります。
DJやバンドを乗せたサウンドカーを先頭にして練り歩くわけです。
数年前から始まったものですが、原発反対のデモで巨大化。
4月に高円寺、5月に渋谷であった、「素人の乱」というグループが呼びかけたサウンドデモでは、それぞれ1万5千人が参加して、路上がライブハウスになったり、クラブになったりしてました。
「素人の乱」の中心メンバーである文化人類学者のイルコモンズこと小田マサノリ氏がやっているドラム隊も素晴らしい。
最初は「ドラムは高揚するなあ。もともとマーチは戦争のためのものだったりするしなあ」なんてことを考えていたのですが、見れば見るほど面白いのです。
このドラム隊は、リーダーがおらず、練習もなく、打ち合わせもなく、曲もなく、資格もなく、集まった人たちが突然演奏を開始。
ただ太鼓を叩きながら歩くだけなのですが、その時のメンバーによって音は変化し、状況に合わせてもリズムやテンポが少しずつ変わっていき、「ここだっ!」というところでは、阿吽の呼吸で盛り上がります。
音楽に言葉はいらないなんてことを言うわけですが、これは楽器ができる人の話。
できない人はそれを眺めているしかない。
しかし、太鼓を叩くくらいは誰でもできる。
難しいリズムを叩く必要はなく、その組み合わせで、イヤでも複雑なリズムが生まれていく。
なんという民主的な音楽なのでしょう。
このドラム隊は全国のデモで組織されているのですが、祭りのお囃子のようだったり、サンバのリズムが聞こえてきたり、地域性も出るのです。
文 = まつざわくれいち/1958年生まれ。『エロスの原風景』(ポット出版)、『風俗お作法』(小社)など著書多数。
イラスト = 友沢ミミヨ