風俗指導員・松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける著者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。連載第3回目は、算数の時間!? リピート率を使って、指名数や売り上げをシミュレーションします。
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 風俗嬢に「ルックスがよくないから指名がとれないんです。どうしたらいいでしょう」と言われると、もう私は答える気がなくなる。んなこと言われたら、「ルックスをよくすればいいんでねえの」と答える以外にない。本当にルックスのせいで指名がとれないと思うんだったら、エステに通うなり、整形すりゃあよくて、私に相談したってしゃあないではないか。

 では、算数の時間である。

 よく「指名率」なんて言うが、一般には、ある女のコについた客のうち、本指名の客がどのくらいいるのかを指す。たとえば、ある日の客が8本だとして、そのうち2本が本指名だとすると、このコの指名率は2割5分だ。

 このような指名率は、全体の本数によって左右されてしまうため、そのコの実力を絶対的に表している数字ではない。どういうことかというと、客が入っていない店だと、本指名が2本でも、1本しかフリーがつかず、写真指名が1本しかつかない。とすると、全部の本数が4本になり、指名率は5割に跳ね上がってしまう。このように、本人の実力が一緒でも店によって母数が違ってくるので、店を越えて比較できる数字にならないのだ。
 同じ店の中でさえ比較が難しいこともある。Aちゃんは本指名が3本、Bちゃんは本指名が1本だけだとする。平等に稼がせようとする店では、Aちゃんにはフリーを1本つけ、Bちゃんには3本つけて、二人とも4本になるようにする。この場合、Aちゃんの指名率は7割5分で、Bちゃんは2割5分となって、実力を反映した数字になる。

 ところが、Aちゃんの方が客の評判がいいとなれば、店としては新規の客をAちゃんにつけたくなる。新規の客は最初でコケると二度と来てくれないため、常連になりそうな新規の客にはできるだけいいコにつけたいと思う。また、暇なコばかりにフリーをつけると、Aちゃんには「一所懸命指名をとっているのに、どうしてBちゃんの本数と同じなの?」という不満も生じてきて、やる気がなくなるため、フリーの客もAちゃんに多くつけようとする店があるわけだ。

 こういう店では、本指名が3本のAちゃんにフリーの客を3本つけ、本指名1本のBちゃんには1本しかつけない。この場合の指名率はAちゃんが5割で、Bちゃんも5割。指名率から見ると、実力を反映していないのである。

 そのため、指名率よりも、指名本数の方が本人の実力を計る基準として利用されることが多いのだが、これも普遍的な基準にはなりにくい。週に5日出勤しているAちゃんの指名本数が月に50本で、週に1日しか出勤してないBちゃんの指名本数が月に20本だとすると、単純な本数で言えばAちゃんの方がすごいようだが、Bちゃんは5分の1しか出勤していないのだから、Bちゃんの方が実力は上だ(Bちゃんが週に5日出勤したら、本指名がこの5倍になるとは限らないのだが)。

 そこで店によっては、1日出勤して、何本平均つくかの数字を出す。先の例では、Aちゃんが2.3本くらい。Bちゃんが5本弱。これなら実力を反映している。

 それともうひとつは、「リピート率」である。リピート率を指名率と同じ意味で使っている店もあるが、ここではフリーや写真指名、雑誌指名でついた客がたとえば1ヶ月以内にどれだけ本指で戻ってくるかを意味する。これも実力を比較的正確に反映する。

 単純な本数比較の場合は、長い間働いているコの方が圧倒的に有利だ。新人には蓄積がないから、本指名がとれないのは当たり前である。しかし、リピート率で言うと、新人がキャリア3年の先輩を追い越すこともある。
 話が長くなったが、このリピート率を使って、ルックスがどの程度大事なのか、あるいは大事ではないのかを見ていく。

 仮に、出勤すれば誰でも必ずフリー客が2人つくヘルスがあるとする。

 この店のAちゃんはルックス抜群で、雑誌にも出ているため、雑誌指名と写真指名が1日5本つく。これにお約束のフリーがついて計7本だから、このコは熱心にサービスする気は毛頭ない。当然、客受けもよくなくて、1ヶ月で客は1割程度しか戻ってこない。リピート率1割である。

 Bちゃんは雑誌には出てないが、ボチボチのルックスで、写真指名が1日2本つき、計4本になる。このコはリピート率が5割。

 Cちゃんは見た目がマズいため、写真指名はゼロ。ごく稀に、「ブス専」の客が写真指名をすることがあるが、無視していい程度の数字だ。したがって、フリーの2本がつくだけ。ところが、このコは天才的な接客能力があって、リピート率は9割だ。

 以上3人の出勤日数などの条件はすべて同じとし、それぞれ本指名の客は1ヶ月に1回来るということにして、1ヶ月目の数字を見ると、やっぱり顔がきれいで雑誌に出ているのは圧倒的に有利だ。本指名数がゼロから始まったとして、1ヶ月後は、フリー客を入れて、Aちゃんは1日平均7.7本、Bちゃんは6本、 Cちゃんは3.8本。リピート率が1割、5割、9割と、大きな差がついているのに、1ヶ月ではまだまだ本数の順位に変動はなく、見た目の有利さは揺らがない。

 ところが、これが2ヶ月目になると、Aちゃんは8.5本、Bちゃんは9本、Cちゃんは7.2本になって、Bちゃんがトップとなり、Cちゃんも2人に遜色がない本数になる。

 そして、3ヶ月目には順位がきれいに逆転して、Cちゃんは13.7本、Bちゃんは13.5本、Aちゃんは9.3本となる。もちろん、これ以降はCちゃんの独走である。これ以上は物理的につきようもないけどさ。
 実際にはこれほどきれいに計算が成立することはなく、見た目がものすごくマズいのに9割の客を1ヶ月で戻すのは日本全国1人もいないに違いない。5割だって十分すごい数字ですからね。

 また、指名が増えれば増えるほど、客がつかずにいる時間が減るのだから、フリー客を平等につけることはできず、どうしたってフリーの客は暇をしている女のコにつけることになる。かといって、すでに書いたように、あまりに客の戻りが悪いコには安心して新規の客をつけることができないため、いくらルックスがよくても、Aちゃんのようなコには新規の客はつけにくいのだから、この計算通りにフリーをつける店はほとんどない。

 それでも傾向としてはこのような結果となり、初動は圧倒的に見た目が影響する。まして雑誌に出ているコはそうだ。しかし、ルックスが抜群によくても、1 割しか客を戻せないのでは、客が全然蓄積されない。実際に1割も戻せないフードルだってたくさんいて、その僅かな客にしても、サービスが悪いのでは、三度四度は来ず、常に新規の客を開拓していかないと本数を維持できない。顔フェチとて、何度も見てれば飽きるってもんで、顔主体の客は長持ちしないのだ。

 それと同時に、実力を発揮するには時間がかかるってことでもあって、入店2ヶ月目でナンバーワンになるような天才肌のコは別にして、指名本数や売り上げという点で、数字が表れるには少なくとも半年くらいはかかる。なのに、いったん蓄積した指名客を捨てて他店に移ってゼロからやり始めるのはもったいない。指名客のいないコは身軽でいいですけどね。また、指名客がすぐにつくコは3日で客が戻ってきたりもして、どこに行ってもすぐに元通りってことでもありますけどね。

 このことをわかっていないから、「私はこの店には向いてない」なんて早とちりして、次々と店を移ることにもなる。ホントにダメなコは辞めたっていいんだが、リピート率がいいのに早とちりしない方がよく、店も細かなデータを出しておいて、彼女を安心させた方がいいのだ。

 かといってルックスのいいコがダメなはずもなくて、1割しか戻せないAちゃんでも、雑誌指名と写真指名とを常に新規で稼げるため、Cちゃんよりもチャンスは多い。仮にAちゃんとCちゃんのリピート率が同じだったら、圧倒的にAちゃんが有利なのである。

 なのにルックスのいいコが案外伸びないのは、ルックスに依存してしまって、磨きをかけない傾向があるためだ。もちろん、もっと問題なのは、ルックスがよくなく、自分の人気がないことをそのせいにして終わってしまっているコだけどな。
 さて、私には、いつか誰かに指摘されるのではないかと怯えながら、まだ誰も指摘してこない秘密がある。

 これだけ風俗嬢の魅力はルックスではないと強調しながら、私が遊んでいるコたちは、ほとんど全員と言っていいくらい見た目がいい。好き嫌いがあろうから、誰もがもれなく納得するわけではないでしょうけど。

 どうしてこうなるかというと、私は馴染みになるコを選ぶチャンスが多いのである。取材とかプライベートとか合わせると、少なくとも週に2人は新規で風俗嬢に出会える。年に100人以上の中から、自分の好みを探せるわけだ。さらに、情報もたくさん入ってくる。写真もいっぱい見られるし。

「ルックスはいいが、サービスのダメなコ」よりも、「ルックスは悪いが、サービスのいいコ」を私は選ぶが、それよりさらに「ルックスがよくて、サービスもいいコ」を選ぶ。そうできる環境にあるってことであり、事実、私が遊んでいるコらは、ルックスがよくて人気もあるコたちだ。必ずしもナンバーワンになるタイプのコを好きにはなるわけではないんだが、指名本数、リピート率のどれをとっても上位に属しているコばかり。

「おい、松沢、話が違うじゃないか」と誰かに突っ込まれるだろうとずっと思っていたんだが、自分で告白して楽になってみた。算数の時間と思わせて、本当は懺悔の時間なのでした。
ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに!
松沢呉一(まつざわ・くれいち)
1958年生まれ。ライター。音楽から宗教、著作権問題などフィールドは多岐にわたるが、ここ10数年は性風俗産業の取材を中心に活動。その高い見識と飾らない人柄に風俗嬢たちからの信頼も厚く、仕事およびプライベートに関する相談を受けることもしばしば。ときに「風俗指導員」と化している。『ぐろぐろ』、『エロ街道をゆく』(以上ちくま文庫)、『風俗見聞録』、『風俗ゼミナール〈女の子編/お客編/上級・女の子編/上級・お客編〉』(以上ポット出版)、『魔羅の肖像』(新潮OH!文庫)など著書多数。編書に『売る売らないはワタシが決める』(ポット出版)などがある。
松沢呉一

2004.3.2 up

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