風俗指導員・松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける著者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。前回に引き続き、水商売と風俗のお客の違いや、働く女の子の意識の差について考えます。
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前回の続きである。私が感心したのは、以下の話だ。

「一般にクラブのお客さんの方が長いですよね。風俗のお客さんは1回だけという人も多いですから。ただ、面白いのは、お店を辞めてからは、クラブのお客さんとは一切つきあいがなくなりました。でも、ホテトル時代のお客さんとは、今もつきあいがあります」

ホテトルは10年以上前のことだ。なのにつきあいが続いているのに対して、たった1年ほど前までやっていたクラブの客とはひとりとしてつきあいがないというのである。

「どういうこと?」

「クラブのお客さんとはどこまでもお金でくっついている。その関係が切れると、こっちから連絡することはないし、あっちも連絡をしてこない。でも、風俗のお客さんは、お客さんの段階から友だちみたいな感覚になって、私がホテトルを移ると、“いいコいる?”って聞いてきて、“友だちがどこどこで働いているから、遊びに行ってあげてよ”ってこっちも損得抜きで教えてあげられる。今もその関係が続いていて、ごはんを食べたり、電話で話したりする人がいます。でも、水商売では、自分の客はどこまでも自分の客。よっぽどの親友だったら“あのコについてあげて”って言ったかもしれないけど、お客さんもそんなことは聞いてこなかったですよね」
私自身、すぐにダチ感覚になるから風俗嬢と客の関係に関してはよくわかる。風俗嬢と店の外で会う時は、すでに風俗嬢と客の関係ではなくなっている。私の場合は、こうなると、性欲の対象でさえなくなってしまうことが多いのだが、仮にセックスするとしたら、金銭を媒介にせず、互いの恋愛感情か、互いの性欲か、単なる成り行きである。

しかし、この店長自身、ホステス時代は、金をもらって店の外で定期的に会ってセックスをする客が常に何人かいて、どこまでも金なんである。

そこまではわかるのだが、ホステスじゃなくなった途端に、クラブの客がそうも簡単に切れてしまうことがわからない。計算尽くでつきあっているため、クラブホステスである限りは、相手に心を許せないのは理解できるが、金の関係が切れれば友だち関係になっていいではないか。

「そうはならない。相手も、お金が使えなくなると、自分のプライドが保てない。この女は自分が食べさせてやっているというプライドでつきあえていたのに、お金がいらない対等の関係だと、どうやってつきあえばいいのかわからなくなるし、お金を出せないと自分が下に落ちたような気がするんでしょうね」
今はそんなことはあまり言わないだろうが、「男と女に友情はない」なんて言いたがる男たちも、実のところ男と女はランクが違うというプライドのためにそう言っているのかもしれないなんて思ったりもする。

私は彼女にこう聞いた。

「それって、もともと人が違うのかな。同じ人でもそうなってしまうのかな」
高級クラブに通い、なおかつピンサロにも行く人はまずいないだろうが、高級クラブに通い、なおかつヘルスに行く人は、少数ながらいる。高級ソープに行く客はもっといる。「こういう人は、やっぱり風俗に行っても風俗嬢とダチにはなれないのか、それとも風俗であればダチになれるのか」って質問である。私自身、クラブの客についてはあまりに遠い存在で、どっちなのか想像がつかなかったのだ。

彼女はこう答えた。

「たぶん同じ人でも、入口が違うと、つきあい方が違ってくるんだと思う」

重要な指摘である。人間関係は入口で違ってくる感覚が私にもある。仮に相手が同年齢だとしても、学生時代に同級生として知り合った場合、学生時代に遊び友だちとして知り合った場合、会社の同僚として知り合った場合、会社の先輩として知り合った場合、会社の後輩として知り合った場合、下請けの社員として知り合った場合、取引先の会社の社員として知り合った場合はそれぞれに関係の作り方が違っていて、会社を離れた場でも、この入口によってつきあい方が変わってくる。

あるいは、つきあっている女の元カレとして知り合った場合、前につきあっていた女の現在のカレシとして知り合った場合、つきあっている女の兄として知り合った場合、つきあっている女が二股をかけていた男として知り合った場合、妹のカレシとして知り合った場合もそれぞれにつきあい方は違う(私に妹はいないけど)。

私自身、同じコであっても、風俗嬢として店で知り合った場合、風俗嬢として店以外で知り合った場合、風俗嬢とは知らずに知り合った場合、自分の読者として知り合った場合とでは、接し方は違ってくるように思う。

これについてはかつて原稿を書いたことがあるが、ミュージシャンや俳優も、CDやステージ、テレビ、舞台などのいわば虚像に先に接していた場合と、人として先に知り合う場合とでは、その印象も関係性も違ってくるし、本人と知り合って以降も、作品による影響を受けて、実像のまま接することができにくいこともある。

いずれ行き着くところは一緒とは言い切れず、どこまで行っても関係性が変わらないこともある。会社員時代は仲が良かったのに、会社を辞めた途端につきあい方がわからなくなって疎遠になることもある。相手との関係性によって、つきあいやすさが違ってきて、カノジョとしてはつきあいにくかったが、それ以降、友だちとしてはうまくいっている、それとは逆にカノジョとしてはよかったが、そうじゃなくなった途端につきあえなくなることもある。

してみると、「クラブの客は金を介した人間関係しか作れず、対等な人間関係を作れない」なんて話ではなくて、人間は「どういう関係から始まるか」によって、その後まで左右されてしまうってことであって、誰もが多かれ少なかれ経験する事象を非常にわかりやすく彼らは見せてくれているってことなのである。
これについての店長の話はざっと以上なのだが、このテーマはさらに追究する価値がありそうだ。これを考える上で参考になる話をさらに紹介しておく。

知り合いのヘルス嬢やイメクラ嬢が「ソープに移ったので遊びにおいでよ」と連絡をくれることがあって、Yちゃんというコもそんな連絡をくれた一人。彼女は、他の客には誰一人このことを言っていないという。

「だって、ここは高級店だから、前の店の客はどうせ金がなくて来られないでしょ」

たしかに前の店なら数千円から遊べるが、ここは総額6万5千円。私だって金はないんだけどな。

「それに、ソープに移ったというと失望するお客さんもいるから」

いつかはこのコとセックスがしたいと思って通い続けたお客さんにとっては、彼女がソープに移ればその願いが遂に叶うわけだが、彼の願いは「自分だけがセックスすること」だったりして、誰でもできてしまってはつまらんのである。

世の中には、ソープにもヘルスにも行く客がいるわけだが、ソープで知り合っても、へルスで知り合っても、好きになったかもしれないYちゃんが、ヘルスからソープに移動すると失望する不思議さよ。

私の場合はそういう失望がないから彼女はソープにも呼んでくれたのだろうが、彼女とは客で遊びに行きつつも、半ばダチ状態であって、ここが他の客とは違うところかもしれない。

また、ソープの客の中には「ヘルス上がり」というのを嫌い、「ソープで風俗デビュー」を好むのがいるため、ソープの客にもすべては言わない方がいいみたい。同様のことは女王様でもあって、ヘルス嬢から女王様になったのを嫌うM男さんもいて、彼らは女王様からヘルスやスソープに移ることももちろん嫌う。今までのようなプレイができなくなるためではなく、彼らにとっては彼女自体が堕落した存在になってしまうからだ。

同じクラブでも、値段の高い店から安い店に、銀座から新宿に移ることを嫌がる客もきっといるんだろう。相手のことがイヤになるだけではなくて、「安い店に行く自分がイヤ」なんである。

こういう場合、自分のことをやっぱり考えてしまう。かつて私がまだ「風俗ライター」などと名乗っていなかった頃は読者だったという人によく会う。事実、単行本の部数を見ると、歴然と落ちているから、そういう人は決して少なくないことがわかる。その頃だって、エロのこと風俗のことを書いていたりしたわけだが、非風俗ライターが風俗のことを書くのと、風俗ライターが風俗のことを書くのでは、中身が一緒でも受け方が違うんである。「風俗ライターじゃなかった松沢は好きでも、風俗ライターの松沢は嫌い」あるいは「風俗ライターじゃないライターが好きな自分は許せても、風俗ライターが好きな自分は許せない」ってわけだ。

ソープの場合は、大衆店に移ることで客が増えて収入は変わらないとか、場合によっては増えるということもあるわけだが、ライターの場合は、風俗ライターになって原稿単価が落ちることはあっても、上がることはないような気がする。その上、単行本の部数が減るのだから、いいことは何もない。

「こういうことを書いたら読者に受けるから、ウソを書こう」などと計算尽くで原稿を書く必要はないが、生き方についてはもうちょっと計算した方がよかったな。こういう計算をしないところはやっぱり私は風俗体質なんだと思う。
ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに!
松沢呉一(まつざわ・くれいち)
1958年生まれ。ライター。音楽から宗教、著作権問題などフィールドは多岐にわたるが、ここ10数年は性風俗産業の取材を中心に活動。その高い見識と飾らない人柄に風俗嬢たちからの信頼も厚く、仕事およびプライベートに関する相談を受けることもしばしば。ときに「風俗指導員」と化している。『ぐろぐろ』、『エロ街道をゆく』(以上ちくま文庫)、『風俗見聞録』、『風俗ゼミナール〈女の子編/お客編/上級・女の子編/上級・お客編〉』(以上ポット出版)、『魔羅の肖像』(新潮OH!文庫)など著書多数。編書に『売る売らないはワタシが決める』(ポット出版)などがある。
松沢呉一

2004.4.6 up

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