風俗指導員・松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける筆者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。今回は「そんなこと言われたら、また会わないではいられない」と筆者の心を震わせた、きわどいセリフを選りすぐってご紹介。
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その場を盛り立てるには、プレイ中のエロ言葉は効果的だが、場所や程度をわきまえたいもの。

別の原稿で詳しく書いたが、入店初日のど新人のヘルス嬢が「オマ×コが壊れちゃうよー」「チ×ポ大好きだよー」と凄まじい声で絶叫したのには困った。というのも、この店は声が筒抜けで、店の人たちも私のことをよく知っているから、「松沢は一体何をしているんだ」と思われてしまう。

単なる喘ぎ声なら他の客への刺激にもなろうが、「チ×ポ」「マ×コ」の連発が聞こえてきたのでは、さすがに退いた客、恥ずかしくなってしまった客がいたのではないか。外に声が漏れない部屋ならよかったろうが、他の部屋にいる客の気持ちを想像して私まで恥ずかしくなった。

終わったあと、店長も「フロントまで聞こえてましたよ。あのコは完全個室の店の方がいいでしょうね」と困惑していた。しかし、出張ヘルスでも、あのコじゃ迷惑がられるだろう。家に呼んだら、近所にまで聞こえてしまいますから。

このすぐ近くにある人妻ヘルスもまた声が筒抜け。以前は「雰囲気を高めるために声を出すように」と店長は「声出し」指導していたのが、昨年、店の女のコはそのまま残して経営が変わった。それからは「他の部屋に聞こえると迷惑だから、声を抑えるように」と180度違う指導をするようになった。経営者によって考え方はいろいろである。

最近この店に入った知り合いのコがこう言っていた。

「古くからいるコなんだけど、すごい大きい声を出すんですよ。この間、店の人に“声が大きい”って怒られてましたよ」

前は褒められたのに、今は叱られるんだから、納得できないものがありそうだ。この人も完全個室の店に移った方が思う存分声が出せていいのに。
きわどいセリフは、相手と状況を見て言うことが必要だが、私が感心した、あるいはグッときた、きわどいセリフをいくつか紹介しておこう。

取材で会って気に入って、以来プライベートでも遊びに行くようになったTちゃんと三度目に会った時に言ったセリフ。

「あーん、こんなに感じさせられたら、本物が欲しくなる」
「フフフ、いつでもオレのを使っていいぞ」
「でも、私、お店では絶対にしないって決めているの」
「じゃ、外だったらいいのか」
「店外デートもしないって決めているの。でも、松沢さんは特別な人だから、この仕事をやめたらエッチしよ。そしたら店外デートじゃないでしょ。それまで通ってね」

うまい。店を辞める時には連絡を絶てばいいだけよ。すでに他の原稿で詳しく書いたが、同様のセリフを言いながら、きれいに連絡を絶ったのが現にいた。携帯のアドレスが使用されなくなったことを知った時は悲しかったが、腹は立たない。

ちなみに、「この仕事をやめたらエッチしよ」と言ってくれたこのコは今も働いている。早く辞めればいいのに。連絡絶つかもしれないけど。
続いては、ある地方都市で、初めて会ったコと大変息が合い、寸分の無駄もないプレイができたときのこと。相手は二度達し、私も彼女の絶妙の素股で放出。

彼女はシャワーを浴びながらこう言った。

「これでエッチすれば私たちって完璧だよね」

ここでのエッチは本番のことである。

「そうだね」と私も答えた。

これは余韻を残す。私も何から何までこのコとは相性がいいと思っていたわけだが、「こいつ、セックスしたかったのかな」なんてことも思ってしまう。こんなことを言われたらまた会わないではいられない。

彼女としては滅多に来られるわけではない東京の人間だからこそそんなことを言ったのかもしれないが、数ヶ月後、しっかり私は彼女に会いに行った。しかしもう店を辞めていた。

あの時の言葉を蒸し返して、「エッチすれば完璧だって言ったじゃないか」なんて言って本番を迫る無粋な客もいるかもしれないが、そう言われたら、「でも、本番禁止だから、完璧になれないのね」とかわせばいいだけだ。
さらにきわどいものとして、こんなのもあった。初めて会ったモデル級の美人さんだったのだが、彼女は感じまくってチ×コをギュッと握りしめ、呻くようにこう繰り返した。

「苦しいよー」

指入れをしていたので、痛いのかと私は思った。

「ごめん、痛い?」
「違うの、もっと続けて」

プレイのあと、私は聞いた。

「何が苦しかったんだよ」
「言えないよ、そんなこと。わかっているくせに」

鈍い私とて、ようやく理解した。

「ん、入れたくなったのか」
「もー、そんなこと言えないって」

彼女は入れたいのに入れられないことを苦しがっていたのだ。こういうスレスレのきわどい領域を一緒になって彷徨うのが私は好きだったりもする。

さらに彼女はこう言った。

「何度も“カモン!”って言いそうになっちゃたよ。次に会ったら負けちゃいそう」

次に会った時にどうなったかは内緒にしておくが、こんなことを言われたら、また会いたくなるってものだ。
彼女は間もなく退店し、しばらくメールのやりとりを続けていたが、突然、アドレスが変わってしまった。また会いたい。

続いて、現在もよく遊びに行っているバツイチ風俗嬢と初めてプレイをしたあとのセリフ。

「お客さんに聞くと、こういう仕事をしているコたちでも、気持ちよくなって本番しちゃうのがいるって言うじゃないですか。そんなことを言って私とも本番しようとしているのが見え見えで、そんなことあるわけないって思っていたんですよ。でも、松沢さんに会って、初めてそう思いました」

ステキ。本番という行為よりも、こういうセリフ自体が私は嬉しい。

マットヘルスのナンバーワンのコが言っていた話。

「“本番したい”ってお客さんに、“私もしたくなるくらいに感じさせてくれたらしてもいいよ”って言うと、たいてい通ってくれるんですよね。何度来ても、ずっと“まだまだ”って言っておけばいいんです。実際、こっちがしたくなるほど上手い人ってほとんどいないですから」

これまたうまい。「あと10回通えばいいよ」などと数字を限定してしまうと、本当に10回通われて困ることになるが、これだったら永遠に使える。

「本当に上手で本当に気に入ったお客さんとだったらしたことがないわけじゃないから、ウソじゃないし」

ナニ!?ウソじゃないんか。だったら、オレも通うかな。って思ったりして。
ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに!
松沢呉一(まつざわ・くれいち)
1958年生まれ。ライター。音楽から宗教、著作権問題などフィールドは多岐にわたるが、ここ10数年は性風俗産業の取材を中心に活動。その高い見識と飾らない人柄に風俗嬢たちからの信頼も厚く、仕事およびプライベートに関する相談を受けることもしばしば。ときに「風俗指導員」と化している。『ぐろぐろ』、『エロ街道をゆく』(以上ちくま文庫)、『風俗見聞録』、『風俗ゼミナール〈女の子編/お客編/上級・女の子編/上級・お客編〉』(以上ポット出版)、『魔羅の肖像』(新潮OH!文庫)など著書多数。編書に『売る売らないはワタシが決める』(ポット出版)などがある。
松沢呉一

2004.4.20 up

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