風俗指導員・松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける筆者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。今回から7回にわたり、営業メールの極意について探ります。
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夕方、山手線のシートに腰掛けていたら、目の前でこんな会話が交わされた。

「うちの息子が時々メールを送ってくるんだよ」
「えっ、よくメールなんてできますね」
「うん、教えたんだよ」
「全部平仮名ですか」
「そうだよ」

二人ともネクタイをしたサラリーマン風で、片方は40歳前後、もう一人はそれより数歳若い部下のようだ。息子の歳がいくつかはわからないが、その会話からすると、ようやく平仮名を覚えた幼稚園児か、小学校1年生くらいと思われる。

「何を書いてくるんですか」
「この間来てたのは、“ぼくはうるとらまんになりたい”」

ちゃわいいー。子どもを欲しいとは思わない私だが、こんなメールを息子からもらったらさぞかし嬉しいだろう。きっと「アタシはウルトラマ×コになりたい」と若い娘っ子からメールをもらうのと同じくらい嬉しいに違いない。
「アタシはウルトラマ×コになりたい」というメールをもらったことはないが、それに近いメールはよくもらっている。

3ヶ月ほど前に会ったきりのレナちゃんというヘルス嬢に「今週会いに行くよ」とメールを出したら、こんな返事が来た。

「ウレシー。来る日が決まったら教えてね。栗出して待ってる」

「栗出して待ってる」には笑った。このコはクンニされるのが大好きなんである。こういうキュートなエロメールは嬉しい。

ただし、気をつけなければならないのは、相手を選ぶことと、自分のキャラを認識しておくことである。このコは、エロキャラ全開で人気があって、一時は指名用の写真にも「私、エロいんです」なんて書いていたものだ。本番をしたがる客が急に増えたため、やめたそうだが。

こんなコだから、「栗出して待ってる」なんてことを書いてきても失望することはなく、「さすがレナちゃん」と私は感心さえする。また、そう書けば喜ぶだろうと想像できる私のような客だからいいようなもので、女が露骨なエロ表現をすることを嫌う客だっているのだから、相手を選ばず、こういうメールを送ってはいけない。

しかし、本人に聞いたら、メール交換するような相手には誰にでもこういうことを書いているとのこと。

「退く人もいるだろ」
「そういう人にはメールしない。名刺にも“またよろぴくりとりす”とかって書いているよ。名刺も誰にでもあげたりしないけどね」

このあと彼女が送ってきたメールには「お仕事頑張ってクリトリス」って書いてあった。クリトリスを乱発しすぎかも。

その次のメールには「朝早くから膣礼します」と書いてあって、くだらなすぎて笑った。
  レナちゃんは以前キャバクラにいただけに、ホントにメールが上手だ。エロメールだけじゃなく、見事に「オヤジの乙女心」をくすぐることをよく書いてくる。

2年ほど前に知り合った頃は、キャバクラがメインで、ヘルスは週に1回、多くても2回しか出ていなかったため、次の出勤を確認するメールを出したことがある。すると、「来週からしばらく店を休むことになっちゃったの」とメールが返ってきた。

私は休みの前に遊びに行こうと思って、その旨メールしたら、以下の返事が届いた。

「松沢さんは人気があるから、たくさん女の子がいるだろうに、わざわざ私を指名していただいて、すごく嬉しいッ」

「指名してね」「また来て欲しい」とお願いしてしまうと、客としては「来てやったよ」という気分にもなりかねないが、このメールでは頭を下げているのではない。しかも、私を思いきり持ち上げて、行間にいじらしさをも漂わせる見事な作品と言える。私のようなバカオヤジは、こんなメールをもらうと、有頂天になって、絶対この子を指名しなくちゃと思うわけだが、私が勝手に指名しているだけであり、あちらは貸しを作っていない。

このセンスって、キャバ嬢としてのキャリアによるものではないかとも想像でき、生粋の風俗嬢の営業メールにはなかなか見られないタイプのような気がする。もちろん例外はあるが、生粋の風俗嬢はもっとダチのノリで、ストレートに「また来てね」と書いてくる方が多い印象がある。レナちゃん本人は「キャバは合ってなかった」というが、その前は百貨店で働いていたため、接客はうまいんである。
 
さて、そのあと、彼女が出勤する日、急遽、仕事が入って行けなくなってしまった。私は行けなくなったことを伝え、「ごめんよ。でも、ますます会いたくなったよ」とメール。対して、「私もすごく会いたいヨ」と返事が来た。

「その気持ちだけで十分すぎるくらいに嬉しいわ! お仕事頑張ってね。早く会えるように、私も頑張ります」

ここでも決して「早く来て」とは言わず、控え目感があるし、どこまでも貸しを作るようなことはしていない。

このメールでは「お仕事頑張ってね」と、水商売や風俗嬢の営業メールや名刺に書き込む典型的なフレーズが使用されている。これが単体で書かれていると、面白くも何ともないが、その次の「早く会えるように」という一言が、凡庸なフレーズではなくす効果を発揮している。よく考えると、彼女が頑張ったところで、早く会えるわけではないのだが、この際、論理的な整合性など必要ない。

ところで、このコに限らず、今時の小娘は日常会話ではまず使わない「~わ」「~だわ」「~わよ」「~わよね」という語尾をメールで使用するのがよくいる。直接の会話と違って、声もヴィジュアルもないため、女であることの強調なり確認なりとして、女言葉が復権しているのではないかとも私は想像している。レナちゃんのメールでも、この語尾が適度に使用されていて、女らしさとラフさがうまくミックスされている文体だ。
彼女はこのあと、急に店を辞めてしまった。私はいい店だと思っていたのだが、彼女はやり方が合わなかったと言う。

新たな店を探しているというので、電話で相談に乗ったこともあったのだが、以来、電話もメールも途絶えた。こちらから「その後、どうなった?」とメールを送ったのに、返事はなし。「あの野郎、店探しの時はああも人の意見を聞いておきながら、店が決まったら、これかよ」と私はムッとした。こういう女って多いものなのである。

それから半月くらいしてメールがあった。「なかなか連絡とれなくてごめんなさい。一刻も早く松沢さんに報告したかったんだけど、体調が悪くて、中途半端な気持ちで会うのは失礼だと思って……やっと落ち着いたので、新しい店のことを報告します。(略)また松沢さんにいかせてもらいたいな。時間があったらまた寄ってね」

見事である。やられた。メールのテクだとわかっても、この文面だと全然腹が立たないものである(その後会ったら、彼女が体調を壊していたのは事実だった)。

いつもと違って丁寧で奥ゆかしい言葉の間に「いかせてもらいたい」なんて大胆なことを書けるのもメールのいいところだ。電話じゃなかなかそうはいかないですからね。
 
メールのいい点は、相手と会っていない時でも、気持ちをつなげておけることだ。それほど意味のある内容じゃなくても、「元気?」「忙しい?」なんて程度のことで十分なので、時々メールを送ってくるコのことは、ずっと気になって、メールがなかったなら、それっきりになったかもしれないのに、また会いに行こうと思う。

レナちゃんとも、それほど頻繁に会っているわけではなく、1年以上会っていなかった時期もある。これだけ間があくと、それっきりになってしまいがちだが、その間も、メールのやりとりをしていれば会っていないような気がしない。メール自体、間があくこともあるが、間があいても「久しぶり」と気楽に送れ、1年空いて会いに行くことの敷居の高さをメールが下げてくれる。

初対面ではあまり話が弾まなかったのに、メール交換しているうちにうち解けることもよくあって、とても1回しか会ってない相手だとは思えなくなる。
  私は東京にいない時でも東京の風俗嬢たちと、あるいは東京にいる時でも東京以外の地域にいる風俗嬢たちとメールをやりとりしていて、特に取材旅行先では移動が多くて、その暇潰しにもメールを送る。

数ヶ月会ってなかった風俗嬢に札幌からメールをした。

「そんな遠くにいるんだ。松っちゃんのいない東京は淋しいよ」

東京にいたって、数ヶ月会ってなかったんだから、いまさら淋しがってもしゃあないと思うが、こう書かれて悪い気はせず、急に会いたくなったりする。

「オレも淋しいよ。東京に戻ったら、すぐに会いに行くね」

「早く帰ってきて」

恋人同士みたいでしょ。

また、旅先でメール交換をしていた風俗嬢の一人に「東京に戻ってきた」とメールを送ったら、こんな返事が帰ってきた。

「なんか松沢さんが帰ってきたと思ったらムラムラしてきた」

これを読んで私もムラムラして、2日後には会いに行った。

このメールのような、「かわいさときわどさ」、あるいはレナちゃんのような「奥ゆかしさと大胆さ」の共存が傑作メールの基本であり、営業メールにしても、「今日は暇だから、遊びに来て」だけでは味気なさすぎ、素っ気なさすぎで、営業であることがあまりに見え見えだ。ここでエロい言葉を交えることで、露骨さは緩衝され、「今日は暇だから、私のウルトラマ×コを見に来て」と書いてくれた方がずっと行く気になるってもんだ(続く)。
 
ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに!
松沢呉一(まつざわ・くれいち)
1958年生まれ。ライター。音楽から宗教、著作権問題などフィールドは多岐にわたるが、ここ10数年は性風俗産業の取材を中心に活動。その高い見識と飾らない人柄に風俗嬢たちからの信頼も厚く、仕事およびプライベートに関する相談を受けることもしばしば。ときに「風俗指導員」と化している。『ぐろぐろ』、『エロ街道をゆく』(以上ちくま文庫)、『風俗見聞録』、『風俗ゼミナール〈女の子編/お客編/上級・女の子編/上級・お客編〉』(以上ポット出版)、『魔羅の肖像』(新潮OH!文庫)など著書多数。編書に『売る売らないはワタシが決める』(ポット出版)などがある。
松沢呉一

2004.5.18 up

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