風俗指導員・松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける筆者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。「メールの極意」第2弾である今回は、営業メールが苦手なヘルス嬢・さくらちゃんとの問答を中心にお届けします。
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さくらちゃんというヘルス嬢もよく「マ×コをなめにきて」などとメールを送ってくるが、このコの場合はエロ一辺倒で、まだまだ工夫が足りない。

このコは普段から「マ×コがどうした」「チ×コがどうした」と口走っているので、メールでこういうことを書くのは不思議ではないが、このコは相手を選んでメールの内容を変えるような器用さはなく、書いてはいけない相手にまで「マ×コをなめに来て」と書いて、客を減らしそうだ。

さくらちゃんと取材で会い、そのあと雑談している時に、ちょうどメールが入った。

「松沢さんは風俗のコたちとメールをよくしているんだ」
「しているよ。今のも、さっき初めて会ったコからだよ」
「えー、1回会っただけでメールの交換するの?」
「するコとはするね」
「なんでそんなに女のコにアドレスを教えてもらえるの?」
「今時の風俗嬢はたいてい教えてくれるだろ」
「そんなことないよー。私は簡単には教えないよ。“教えてくれ”って言うお客さんはいるけど、いつも“そういうのは禁止されているから”って言って、今まで教えた人は数えるほどしない」
「何度会っても絶対教えてくれないのはいるけど、3割くらいのコは初めて会っても、聞けば教えてくれると思うよ」
  積極的に「客に営業しろ」と指導している店がある一方で、客に携帯番号やアドレスを教えることを禁止している店もあって、そういう店のコたちでも、ある程度、こっちのことを信用してくれれば教えてくれるものである。中には携帯をもつこと自体を禁止している店もあると聞いたが、そんな店で働かないだろ、普通。

「それって松沢さんだからじゃないの? 取材の人だと安心でしょ」
「たしかに身元がわかっているからね。それもあるかもしれないけど、プライベートで遊びに行っても一緒だよ。だって、水商売と一緒で、営業用の携帯をもっている風俗嬢もいるし、携帯番号やアドレスまで印刷した名刺をもっているコだっているからね。そういうコでも、全員には渡さないだろうけど」
「みんな、すごいなあ」
「最初からはこっちも聞かないことが多いけどね。3回も会ったら聞いておいた方がいいって思うし、3回会っていれば7割か8割は教えてくれるんじゃないか。仲良くなっても、アドレスを聞くきっかけがないこともあるけど、そういう子が突然店を移ることがあって、聞いておけばよかったってすごい後悔するので、最近はできるだけ聞くようにしているよ」
「店を移る時にもわざわざ教えてくれるんだ」
「アドレスを聞いているコだったら、たいてい教えてくれるよ。中には、突然店を辞めて、アドレスも変わってしまって、連絡がとれなくなるのがいるけどね」
「そういうメールをもらったら、遊びに行こうって気になるものなの?」
「なるよ。ケースバイケースだから、必ず行くわけじゃないけど」
 
キャバクラ嬢たちは、店に指導されていることもあって、客のアドレスを積極的に聞きたがる。教えると、翌日の昼には「昨日は楽しい時間をすごさせてくれてありがとうございました。またお話を聞かせてください。お仕事がんばってくださいね」などとメールが届いている。しかし、キャバ嬢たちのメールはいかにも「営業」が漂い、あっちが気に入ってようが気に入ってまいが、こっちが気に入ってようが気に入ってまいが、機械的に送ってくるため、こっちも「はいはい」と受け流してしまいがちではある。気に入ったコでさえ、「どうせ営業だろ」と思って、さして嬉しくない。だからこそ、そう思われないような工夫をしていて感心することもある。

対して風俗嬢でこちらがアドレスを聞くコはこっちが気に入っている場合のみだ。あっちも「この人には教えたくない」と思えば教えないわけで、最低限のハードルはクリアしているってことになる。そういうコからメールが届くとやっぱり嬉しい。
  「それで、店に出かけていくんだ」
「そそくさとね。すげえ忙しくて、遊んでいる暇がない時は行きようがないけど、たまたま渋谷にいて、次の打ち合わせまで2時間くらい時間が空いて、どうしようかなって思っている時に“元気ですか。たまには遊びに来てください”ってメールが渋谷のコから来たら遊びに行くよね。池袋でも2時間あれば十分だから、池袋まで足を伸ばすこともある。予約が入っていてすぐには入れないために、次の打ち合わせの方を遅らせたりして。メールをした直後に遊びに行くと相手も喜んでくれるしさ」
「それは嬉しいかも」
「あとはね、“明日暇ができたから、どっかに遊びに行こうかな”って思っているとするじゃないか。何人か候補がいて、そのうちの一人からメールが届いたら、間違いなくこのコのところに遊びに行く。メールがなかったら、他のコのところに行っていたかもしれないけど、同じくらいに魅力的なコだったら、メールをくれたコを優先。順位をつけるとしたら、三番目のコだったとしても、メールを優先かな。メールを10本送ったら、10本指名が増えるというほどの効果はないけど、1本2本は増える程度にはメールの効果があると思うよ」
「その程度でも、毎日メールをしてれば、バカにならないね」
「だよね。即効性はなくとも、メールのやりとりを続けていれば、そのうち来てくれることもあるよ」
 
  聞くところによると、キャバ嬢の中には1日200本のメールを出しているのがいるそうだ。一人一人に全部違う文章を送っていたら24時間でも送りきれないから、同じ文面で送っているのだろう。

私もキャバ嬢とメールのやりとりをやっていたことがあるが、「今日は雨降り。冷え込みそうだから、風邪ひかないように気をつけてね。私はこれから出かけまーす」なんて、明らかに複数の客に送っていることがわかるメールがあるかと思えば、時々こちらの名前がちゃんと入っている文面が送られてきたり、内容も私一人に送っていることがわかるものが送られてきたりして、省力化を図りつつも、「あなただけよ」と思わせるものを入れ込んでいる。

複数の相手に送っているものは、奥さんや彼女に見られてもいいように、露骨にキャバクラ嬢からだとわかる文章は避けて、天気のことや社会一般の話題について触れ、個人に送るものでは、相手を見つつ、「お仕事が一段落したら、また顔を見せにいらしてね(はぁと)」なんて書く。

また、人によっては、こういう営業っぽいフレーズは一切使わない。紋切り型のフレーズは避け、ひたすら友達モードのメールばかりを送り、「これからお店なの」とか「今仕事を終わったところ。今日はすごい忙しかったよ」といったようなフレーズで、店のことを匂わせる程度だ。営業であるが故に営業臭さを徹底的に排除しているのだろう。

こういった配慮をするだけでも大変な作業ではあるが、メールで指名本数が確実に増える時代には、このくらいはやらざるを得ず、これをやっているうちにメール・テクが身につくってものだ。
 
  「そういうメールって、“遊びに来て”とかって、露骨に書かない方がいいんだ」とさくらちゃん。

「これは女のコのキャラ次第だし、客のタイプ次第だけど、毎度そういう内容ばっかりだとイヤになるし、一発目から営業臭いと敬遠されるだろうね。逆に“マ ×コなめにきて”って書いた方がかわいらしくてイヤミがないかもね。日常的に仲良しメールをしている相手だったら、今日は暇だからどうしても呼びたいという時には“今日、お店がすごく暇だから来て”って露骨なことを書いてもいいんじゃないかな。ダチの頼みってカンジがして、かえって親近感があるかも」

前に大阪のナンバーワンのコに会った時、彼女はこんなことを言っていた。

「だいたい予約で埋まりますよ」
「すごいね、今時、1日出勤してゼロのコだっているのに」
「そんなの、信じられないですよ。そんなんだったら、自分で客を呼びます」

関西のコたちの方が営業メールを熱心にやっている印象があるが、たしかに1日一人も客がつかないのは、本人の責任と言えなくはない。

このコがいざとなれば客を呼べるのも、普段から、「元気ですか」なんてメールを送り続けているからだろう。

私はこのコの話を紹介しつつ、さくらちゃんにこう言った。

「その辺のバランスは相手を見つつだろうし、フォローの仕方だよ。“お願いだから、今日来て”と言われて出かけて行って、“こんなこと、松沢さんにしか頼めないから”とか言われたら、イヤな気はしないだろ。それどころかかえって効果倍増かも」(続く)
 
ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに!
松沢呉一(まつざわ・くれいち)
1958年生まれ。ライター。音楽から宗教、著作権問題などフィールドは多岐にわたるが、ここ10数年は性風俗産業の取材を中心に活動。その高い見識と飾らない人柄に風俗嬢たちからの信頼も厚く、仕事およびプライベートに関する相談を受けることもしばしば。ときに「風俗指導員」と化している。『ぐろぐろ』、『エロ街道をゆく』(以上ちくま文庫)、『風俗見聞録』、『風俗ゼミナール〈女の子編/お客編/上級・女の子編/上級・お客編〉』(以上ポット出版)、『魔羅の肖像』(新潮OH!文庫)など著書多数。編書に『売る売らないはワタシが決める』(ポット出版)などがある。
松沢呉一

2004.6.1 up

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