風俗指導員・松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける筆者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。「メールの極意」第4弾は、筆者がこれまでに女のコたちからもらった佳作、傑作、名作メールをご紹介。
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メールの普及によって、ホントに皆さん、文章が上手になっている。だからといって長文は書けないだろうが、メール向きの、短いながら気のきいた文章には感心する。

営業メールでしかなくとも、そこにそこはかとない愛情なりエロが漂っていて欲しい。

さっきヘルス嬢から届いていたメール。
「今日はとても暇です。こういう日は松沢さん(はぁと)のことを考えちゃいます。会いたいです(ハートマーク4つ)」

電話だと照れくさくて、「会いたい」なんてセリフはなかなか言えなかったりするものだが、メールでは「会いたい」と書いてくるのが多い。営業であることが前面には出ない使いでのあるフレーズと言えよう。「店に来てください」「遊びに来てください」と書かれるよりも、「会いたい」の方がずっと嬉しいですわね、そりゃ。

よく考えると、「暇だからこいつでも呼ぶか」という意味で私のことを思い出しただけかもしれず、「おまえは暇な時しかオレのことを考えないのか」ということでもあるのだが、こう書くと途端に効果が増す。手紙と違って、原則としてメールはその瞬間見て終わるものだから、あんまし深いことは考えなくてよろしい。

「お元気ですか? 会いたいです…とても(ハートマーク3つ)」

これは最近送られてきていた奥様風俗嬢のメール。内容は先に挙げたのと変わらないが、「…」の使い方がうまい。彼女は夫公認で働いているのだが、これでは浮気しているのではないかと疑われかねないので、メールを見られないように気をつけて欲しい。
「会いたい」に続いて使用される印象があるのが「淋しい」。

「さいきんクレちんと会ってないから淋しいよー」

要するにこれも「たまには店に来い」ってことなんだが、迂回効果がよく効いている。彼女は面と向かってでも「クレちん」と言うのだが、普段は「松沢さん」なのに、メールでは、「まっちゃん」「まっちん」「松やん」「クレさん」「クレちゃん」「クレしゃん」といった親しげな名前を書いてくるのがよくいて、こういうのをあえて書くのも効果的で、私のようなバカオヤジは乙女心を思い切りくすぐられる。

取材で会って、イキまくったコがいて、数日後に、こんなメールが届いた。

「松沢さんのことを思い出すだけでイケちゃいますう」

大胆かついじらしいですね。ゲイにも私をオナペットにしてくれいるのがいる。いじらしいです。

このコからは後にこんなメールも届いた。
「松沢さんの専属風俗嬢にしてくだちゃい(はぁと)エヘ」

かわいいっす。それにドキドキするっす。「いいよ」なんて答えて、「じゃ、8時間勤務で10万円」と言われたらどうしようって思ったりして。これを真剣に書かれると緊迫するが、「くだちゃい」と「エヘ」に気のヌキどころがあるのが救いである。こっちが本気になったところで、「ナニ本気にしてんのよ」と逃げられる佳作と言えよう。
 
メールは出すタイミングも大事。店を出た途端に「久々に松沢さんの顔が見られて嬉しかったです。また気持ちよくさせてください」などとメールを送ってくるコがいる。これをやられると、余韻が強化されて、「ああ、いいコだったなあ。また来よう」って気にもなる。人によっては、「せっかく頭を切り換えようとしている時なのにしつこいな」なんて思うのもいるかもしれないが、一般に「後メール」は効果があると思う。プレイ前は愛想がいいのに、プレイ後は事務的になって送り出すコより、プレイ前はあっさりでも、プレイは濃厚で、帰り際に情熱的なキスをしてくれた方が受けがいいのと一緒で、メールでも「呼ぶ時はねっとりとしつこいのに帰りはあっさり」より、逆の方がいい。

直後じゃなくて、仕事が終わってから時間をかけて書いてくれるコもいるし、「当日はどっちみち忘れるはずがないから、翌日、ダメ押しのメールをした方がいい」って考えるコもいる。この辺は個性が出ますな。

逆に会う前のダメ押しメールをするコもいる。メールで本人に今日は出勤しているかどうかを確認したあと、店に予約を入れ、「4時から行くよ」と報告のメールを入れておく。普通はこれでおしまいだが、「早く会いたい」「早く会いに来て」とメールをくれるのがいる。「うん、わかった、4時に待っているね」ではなく、早く行こうにも行けないことをわかった上で、こういうメールをくれると、こっちも早く会いたくなって、その時間までワクワクしていられるんである。
 
  この類で、ものすごいメールをくれたコがいる。本人に出勤を確認し、店に予約を入れて間もなく、こんなメールが届いた。

「今日はすごくいい日です。だってもうじき大好きな人と会えるから。4時に待っているね」

こんなことを書かれたらメロメロですぜ。これができるということは、私が出勤を確認した時点で、「松沢って人から予約が入ると思うので、入ったらすぐに教えてください」ってフロントに頼んでいるのである。その意味では自然な感情を吐露したのでなく、計算し尽くされたものなのだが、そういう背景をわかった上でもメロメロだ。電話ではさすがに言えないだろうから、メールならではの深みのある傑作中の傑作である。

タイミングで言うと、すでに引退したランちゃんがすごかった。彼女はどちらかというと、メールよりも電話が多かったのだが、「最近どうしているかな」と思っていると、そこに彼女から電話が入るのだ。彼女は4年間風俗嬢をやり、デビュー1週間目から引退まで客として遊びに行っていたのだが、それもこれも、この絶妙なタイミングによるところが大だ。彼女とて計算していたわけじゃなく、つきあいが長いため、二人の気持ちがシンクロしやすくなっていたんだと思う。

彼女は引退した今も「どうしているかな」と思うと、メールや電話をくれる。
 
  では、最後にもうひとつ傑作メール。

風邪が流行っていて、私も3日間寝込んでしまい、ようやっと復調したその日に、高松のハッスル(西日本では「おさわりパブ」のことをこう呼称する)の麻里ちゃんからメールがあった。なにしろ高松だから、そうそう会えるわけではないが、今まで何度か書いているように、このコは本当に仕事熱心で、高松に行く時は必ずと言っていいくらいに彼女を指名しており、私のところにもよくメールを送ってくれる。

「風邪をひいて4日も寝込んでしまった。今年の風邪はひどいぞ」

これはいろんな人に送っているメールだろうが、返事を出すと、彼女はちゃんと個人宛の返事をくれる。この時、私はこんな返事を出した。

「オレも。熱だして死ぬかと思った」

すぐに返事。

「死ぬな、生きろ」

私はさらに返事。

「わかった。生きる」

そして麻里ちゃんからの返事。

「限りなく生きろ(はぁと)」

ユーゴーが本の売り上げがどうか確認するために出版社に「?」と出し、出版社は「良好」の意味で「!」と返事を出した、有名な手紙のやりとりみたいで、見事な返し方である。さすが麻里ちゃん(続く)。
 
ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに!
松沢呉一(まつざわ・くれいち)
1958年生まれ。ライター。音楽から宗教、著作権問題などフィールドは多岐にわたるが、ここ10数年は性風俗産業の取材を中心に活動。その高い見識と飾らない人柄に風俗嬢たちからの信頼も厚く、仕事およびプライベートに関する相談を受けることもしばしば。ときに「風俗指導員」と化している。『ぐろぐろ』、『エロ街道をゆく』(以上ちくま文庫)、『風俗見聞録』、『風俗ゼミナール〈女の子編/お客編/上級・女の子編/上級・お客編〉』(以上ポット出版)、『魔羅の肖像』(新潮OH!文庫)など著書多数。編書に『売る売らないはワタシが決める』(ポット出版)などがある。
松沢呉一

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