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風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける筆者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。長らく続いた「メールの極意」も、残すところあと2回。今回と次回は、メールをする際の注意事項についてお送りします。 | ||
では、今回と次回はメールをする際の注意事項だ。 時々遊んでいる既婚女性とデートしたら、会うや否やこんなことを言う。 「頭に来てさ。うちのダンナが私のケータイをチェックしていたんだよ。メールを全部見られちゃった」 私は彼女のアドレスを最近まで知らず、いつも電話で話していたのだが、彼女には私以外に、男の友だちが何人かいて、きわどい内容を読まれたらしい。彼女は電話でも「会いたいの」「淋しいの」なんて言ってくるくらいだから、メールでもそんな言葉を連発しているんだろう。 「暗証番号を入れないと見られないようにしていたんだけど、暗証番号を誕生日にしていたから、ダンナが思いつく数字をいくつか入れたら当たってしまったみたい」 暗証番号は、面倒でも、銀行口座の暗証番号や誕生日などは使わないようにしたい。 「“おまえは一体なにやっているんだ”って怒られて、それであの人がメールを見たことがわかって、逆切れしちゃったよ」 被疑者が警察の違法な取り調べによって自白した場合、裁判所は、その証言の真実性を認めない。それと同じで、浮気していることは問題としても、それを知った方法が不正という論法である。 |
私は人の携帯をチェックしたことは一度もなく、しようとしたことさえないのだが、パートナーの携帯の通信記録や電話帳を盗み見る男や女は多いらしいですなあ。 ある既婚風俗嬢はこう言っていた。 「見られたことがあるかどうかわからないけど、そういう事態を予想して、男友だちからのメールは読んだらすぐに消します。暗証番号を入れないと読めなくするのは、いかにも怪しいことをしているって教えているみたいだから、見られてもいいように、消すのが一番いいんじゃないですか」 たしかに。他にもこういう既婚女性がいて、万が一、彼女が風呂に入っている時にメールが届いて夫に見られてしまってはまずいため、メールを送れる時間帯は平日の昼間に限られる。あっちは平気で夫が寝たあとにメールをしてくるのだが、こっちは、念のために翌日返事を出すようにしている。メールによって浮気相手との連絡がとりやすくなった分、バレやすくもなっていて、念には念を入れた方がいいみたい。 こんなことを言っていた既婚風俗嬢もいる。 「メールだったら何時に送ってもいいですよ。うちの主人は私が携帯を持っていることを知らないんです。出かける時はいつも持ち歩いているし、家にいる時は主人が見ないところに隠しているので見られることはないですよ」 それだけに、もし見られたら、風俗で働いていることまでバレてしまって、ひと騒動になりかねまい。 |
一方で、堂々と彼氏や彼女がメールを目の前でチェックすることになっているカップルもいて、未読のメールまで勝手に開いて見てしまうので、メール自体、送れないケースもある。 こんなコもいた。 「黙って風俗で働き出して、雑誌に出てバレたんですよ。目的があって働きだしたので、その事情をわかってくれて公認になったんだけど、もともとすっごく嫉妬深いのに、それ以降は私のことを疑うようになって、うちに帰ると、必ずメールや電話の履歴を調べる。メールの内容をチェックするのはもちろん、彼が知らない相手からメールが来たり、電話で話しているだけで、どこの誰かを説明しなくちゃいけない」 「だったら、松沢呉子で登録しておいてくれよ」 「女の名前で登録していてもダメなんですよ。“今度紹介しろ”って話になる。だから私のアドレスを知っているのは5人くらいの友だちしかいなくて、全員彼氏に紹介してます。だからメールの数が少なくて寂しいんですよ」 「そんな彼氏、別れろよ」 「えー、私、束縛されるのが好きみたいなんですよね」 勝手にしろって話である。 |
以前、営業電話について、「店とは違う電話の態度で興ざめすることがある」という話を書いたことがある。普段はテンションを上げているから、甲高い声をしているのに、いざ電話をすると、低いダルい声で出てきて、電話しなければよかったと思うって話だ。 メールの場合は「かったるいな」と思っても、文章ではそんなことを匂わさずに、「メールをくれて嬉しいです。また会いたいですね」なんて書けるから、電話ほどはそういうギャップを感じないで済むものだが、それでもなお素っ気ない返事しか寄越さないのがいる。 彼氏と一緒に住んでいて、彼氏も仕事のことを知っているため、客にメールをすることまではいいのだが、メールを時々チェックしていて、あまりに客と仲がよさそうなことを書くと、いい顔をしないと言うのがいた。 私には彼氏がいることを言っていたからここまで説明できるわけだが、そうじゃない客には説明しようがなく、だったら客とはメールなんてしない方がいいんじゃなかろうか。 |
メールで営業するんであれば、返事をマメに書くことは必須だ。会いたくなって、「今週出勤してる?」とメールを送っても、返事がないと、「出勤してないんだな」と思って、店に行かないことがある。もう1回メールしても返事がなければ、「嫌われたんだろうな」と判断して、それっきりになる。 特に「時間ができたから遊びに行こう」と思って、「今日出勤している?」とメールを出して返事がないと、「出勤していても、客がついていて忙しいんだろうな。今度にしよう」と思って、改めて店に確認しない。 悪気があるのではなく、店に電波が入らなくて、出勤している時はメールを見られず、送れないケースもあって、こういうことはしっかり客に説明しておいた方がいい。それをやらないと、客を逃す。 メールというツールが登場しなければ、店に出勤を確認して遊びに行って、今も関係が続いていたかもしれないのに、メールのために、客を逃しているケースは案外多いのではなかろうか。 |
私自身、好きなコからのメールであれば、どんなに忙しい時でも、必ず返事を出す。その日に出さなくても、翌日か、その翌日には出す。稀には返事を出すタイミングを逸することがあるが、二度続けて同じ相手に返事を出さないのは「もうメールしてくれなくてもいいよ」ということだ。 自分がそうだから、相手もそうだろうと判断してしまうのだが、必ずしもそうではない。 まずは客に問題のあるケース。たとえば初めて会ったコにアドレスを教えてもらって、店を出た直後に「今日はありがとう。また来るね」とメールを送る。直後のことだから、「オレだとわかるだろう」と思って、いちいち説明を入れないが、あっちにとっては今日接客した客だけで何人もいて、アドレスを教えた客もまた複数いたりして、どの客かわからないのである。 「どの人?」などと返事をくれればいいのだが、こういう聞き方をするのは失礼かと思って、そのままにしてしまい、こっちも「返事なしかよ」と思ってそのままになる。 これは女のコも同じで、客はそうそうアドレスを教えてないだろうと思いこむのか、「この間はありがとうございました。楽しかったです」なんてメールが来たが、こっちはアドレスを聞いてなかったコだったため、どの「この間」だったっけと迷い、結局失礼かもしれないと思いつつ、「どなたでしたっけ?」とメールを送り、やっと判明したことがある。(続く) |
ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに! |
松沢呉一(まつざわ・くれいち)
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2004.8.3 up |