松沢呉一の店外講習｜第１４回|風俗求人てぃんくる

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	風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける筆者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。7回にわたってお送りした「メールの極意」の締めは、送り間違いをはじめ、失敗例の数々です。

延々続いたメールの話もこれで最終回。

先日、こんなことがあった。この時は会話の内容を受けたメールを送ったのでわかるだろうと思って改めて自分の説明をしなかったのだが、返事がない。
後日、出勤確認のメールを送ったのだが、やっぱり返事がない。失礼なヤツだと思って、もう行くのはやめようとも思ったのだが、そうするには惜しい人材だっため、今度は電話した。

「松沢だよ」と言ってもピンと来ていない。そう言えば名前さえちゃんとは教えてなかったかもしれない。

「ほら、この間、クンニしたじゃないか」
「ああ、わかったわかった。×××××××××の人だね」

私のアドレスである。そのアドレスを覚えているくらいで、彼女も私かと思いつつ、確信がなくて返事を出せなかったのだそうだ。

こういうすれ違いを避けるため、アドレスは一方的に聞くのでなく、その場で教え合うか、一方的に送る場合は、水商売のコたちがたいてい本文に店名や名前を入れているように、相手にわかるような説明をした方がいいみたい。


	こんなこともあった。よくキュートなメールをくれているコがいて、メールのやりとりをしていて気づいたのだが、彼女は休みの日にはメールの返事を寄越さない。たぶん彼氏と一緒にいるためだろうと思っていたのだが、おかしなことに、休みの日に送ったメールは、それ以降も決して返事を寄越さないのである。「今週遊びに行くね」とメールを出すと、出勤日だったら、その日のうちに「やったあ、クレちんに会える」などとかわいいメールを送ってくるのに、休みの日に同じメールを送っても二度と返事が来なくて、私も遊びに行く気がそがれてしまう。どうやら彼女は、休みの日は仕事のことを一切考えないようにしていて、休みの日のメールもなかったことにしているみたい。風俗嬢には時々いるが、仕事とプライベートをはっきり分けて、プライベートでは仕事のことを考えず、その分、仕事に入ったら全力疾走。それはいいとして、そのために客を逃すことになりかねないのだから、1日遅れでも、2日遅れでも返事を出せばいいのに、すぐに返事を書かなかったメールに返事をするのは億劫なんだろう。その点、水商売のコたちはマメである。あちらからメールが来る。返事をする。これでもうやりとりは終了してもいいのだが、たいてい水商売のコたちは必ずもう1回送ってくる。たぶん店に「最後は自分で終われ」と指導されているんだと思う。そこで意地の悪い私は、どこまでつきあってくれるのだろうかと思って、夜中に延々返事を送り続けたが、10回くらい送ったところで、「ごめんさない、もう眠くなってきたので寝ます。おやすみなさい」というメールが来た。これにもしっかり「おやすみなさい」と返事を出したが、彼女からの返事がなかった。私の勝ちだ。


	また、つい最近知り合ったのだが、これだけメールが普及しても、メールを書くのが苦手というのもいて、「女のコたちはメールが好き」と思いこんでいた私は意外な気がした。時々メールをくれている29歳の人妻風俗嬢がそれ。「私、機械に弱いんですよ（笑）」そんな大層な話じゃなくて、携帯のメールなんて電卓とそう変わらないと思うんだが。「ビデオもセットできないんですよ。自分でパソコンを買ったのに、私はほとんど使えなくて、主人ばかり利用している。今でも私はインターネットも見られないし、メールの送り方もわからないんですよ。携帯電話は前から使ってましたけど、メールを送れるようになったのは去年です。だから、今でもメールを送るのは得意じゃないです」そういえば彼女は女性としては珍しくメールに記号も何も使わず、いつも文面は非常に短い。同様の人は他にもいる。彼女はバツイチ風俗嬢。「彼氏からのメールに返事をするのも面倒で、よく無視してますよ。返事をするにしても、二言三言しか書かない。向こうは長いのを書いてくるのに、私は“わかった”の一言だけとか（笑）」彼女は客には一切アドレスを教えていないのだが、取材で会った数日後、名刺のアドレスを見て、長いメールをくれた。こういう彼女だけにこのメールは嬉しくて、私はすぐに返事を出した。しかし、それ以降はたしかにあっさりとした内容のメールが来るだけ。1回で力尽きたのだろう。


	もし客が「××ちゃんのことばかり考えて夜も寝られない。すごく会いたい。今週遊びに行くね」などなどと愛をこめてメールを送っているのに、「わかった」の一言しか返って来なければさすがに冷める。「今週遊びに行くね」とメールをしても返事がなければ遊びに行かない人も多いだろうが、彼女としては全然悪気がなく、ただ返事を出すのが面倒だっただけで、「来ないなあ」なんてずっと待っているのかもしれない。けっこういるのだが、たとえば「今日は出てる？」と出勤の確認をすると、「ごめんなさい、今日は休みです」とだけ返事を寄越すのがいて、返事をくれるだけまだマシだが、これも素っ気なさすぎ。「私も会いたかったのに」とか「明日は出てます」とか「次の機会を楽しみにしてます」と一言添えて欲しい。こういう人たちは、営業にならないどころか、客を減らしかねないので、客にアドレスを教えない方がいいだろう。したがって店が「メールで営業しろ」などと強制するのは考えものだ。結局マメなメールをしているコたちは、「面倒だけど、指名が増やしたくてメールをする」というよりも、メールをするのが好きなコたちだと思う。そういうコたちは営業だと思ってやっておらず、あえて営業を強制して、「店に来てね」と書かせたのでは、客は興ざめになるだけだと思う。


	さて、メールの失敗の決定打は送り間違いである。私も雑誌の原稿を、間違えて別の編集部に送ったことがある。また、知り合いの女のコに送るべきメールを別のコに送ったこともある。この時はたいした内容ではなかったから事なきを得た。しかし、浮気相手に送ったつもりで、「明日は彼氏が出張なので、朝まで遊べるよ」なんて内容が本命の彼氏に届いてしまったらひと騒動だ。知り合いの既婚女性から、「帰る時に電話をください」とメールが来たことがある。私は家にいたので、「どこにオレは帰るんだっけな」と思ってしまったが、翌日確認したところ、これは夫に向けたメールだった。彼女が結婚していることを知らずにつきあっているつもりの男だったら、大変なことになったろう。また、私宛てのメールを夫に送っても大変なことになるところだった。このメールでは敬語だが、私に対してはもっと馴れ馴れしい言葉を彼女は使っていて、時にはハートマーク連発で、きわどい内容のことも書いているため、嫉妬深い彼女の夫が見たら、離婚騒ぎにだってなりかねなかったろう。


	時々、アドレスに彼氏や彼女の名前が入っていることがある。hiroshi.love@～といった具合だ。この彼女もやはり夫の名前をアドレスに入れている。そのため、このコの本名を知るより前に、夫の本名を知った。こういうアドレスにしておけば、「なんだよ、結婚しているのかよ」とすぐにバレてしまい、浮気がしにくいという計算から、夫がそうさせているのだ。「結婚してないよ」などと言って男をたぶらかすことは避けられるだろうが、こんなことしたって、彼氏がいようと夫がいようと関係がないと思う私のような者にとっては何の意味もないし、割り切ったセックスをしようとする女性であれば、彼氏がいることや結婚していることを相手に説明した方が安心なので、やっぱり意味はないんだが、そうしないではいられないくらい夫が嫉妬深いのである。当然、彼女の夫は携帯をチェックするため、以前は彼女も警戒していて、私のアドレスを登録せず、常に私の方からメールを送り、それに返事を書き、すべて消しているということだったのだが、あるところから警戒心が薄れたのか、あちらからもメールを送ってくるようになった。夫宛のメールを私に送ってきたのも、私のメールを消しておらず、そのアドレスを使用したせいだろう。「気をつけなよ」と私はメールをしたのだが、ある日、突然メールが送れなくなり、電話にも出なくなった。トイレに落としただけかもしれないが、ことによると、夫にバレたのではないか。このまま連絡がとれなくなって、二度と会えないのかと悲しんでいたのだが、「連絡してなかったですよね。アドレスが変わりました」とメールが届いた。電話に出なかったのはたまたまらしい。


	もう別れたから書いていいだろうが、知り合いの小娘の失敗談。彼女はつまらん男とつきあっていて、私を含めた誰もが「別れろ」とアドバイスしていた。彼女自身、その男がどうしようもないヤツだとわかりつつも好きでしょうがない様子。普段は我々にもその男がいかに自分本位のわがままで、彼女のことを利用することしか考えてないヤツかを語っていて、「それでも好き」「利用されても幸せ」みたいなカンジだったのだが、ある時、友人にいつものごとく男の悪口を書いてメールしたら、よりによって本人に送っていて、直後に「そんなふうに思っていたんだ」と男から返事が来たそうだ。普段の彼女はなんでもかんでもはっきり言う性格で、口が悪いと言ってもいいかもしれない。しかし、好きな男の前ではおしとやかになり、寡黙でさえあるらしい。私はそんなところを見たことがないのだが、その場に居合わせた第三者も「ふだんと全然違う」と言う。それだけに男としてはショックだったろうし、彼女としても、自分の正体がバレたみたいなもので、どうしていいのかわからず、そのメールにも返事ができず、後日、改めて謝罪したそうである。結局はこれがきっかけになったのか、間もなく彼女は別れたのだが、本心を書きやすいメールの特性がいかんなく発揮されたと言えるかもしれない。


	ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに！

松沢呉一（まつざわ・くれいち）

1958年生まれ。ライター。音楽から宗教、著作権問題などフィールドは多岐にわたるが、ここ10数年は性風俗産業の取材を中心に活動。その高い見識と飾らない人柄に風俗嬢たちからの信頼も厚く、仕事およびプライベートに関する相談を受けることもしばしば。ときに「風俗指導員」と化している。『ぐろぐろ』、『エロ街道をゆく』（以上ちくま文庫）、『風俗見聞録』、『風俗ゼミナール〈女の子編/お客編/上級・女の子編/上級・お客編〉』（以上ポット出版）、『魔羅の肖像』（新潮OH!文庫）など著書多数。編書に『売る売らないはワタシが決める』（ポット出版）などがある。