風俗指導員・松沢呉一の店外講習
風俗界の知恵袋・松沢呉一さんのタメになる連載も、ここでいったんひと区切り。このタイトルからは想像もつかないですが、最終回は「個性が大事」というお話です。
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ある店のコたちに話したことなんだが、風俗嬢にとっては個性が重要になってきている時代だと思う。

新規で店を立ち上げる場合、「電車の痴漢プレイができる」「放尿プレイ用便器を全部屋に設置」「70キロ以下はいないおデブちゃん専門店」「コスチューム 100種類以上」「即尺、即クンニOK」「在籍の8割がパイパン」といったような特性を打ち出してメディアに扱われるように工夫をするが、メディア対策だけじゃなく、数ある風俗店の中でお客さんが認知するには個性が必要で、だから目立つ名前をつけ、他にないサービスを打ち出そうとする。

女のコたちにとってもこれは同じ。私らのように数多くの風俗嬢に接していると、どうしたって忘れるコはいる。一度しか会っていないのに、半年後にも覚えているコは「ずば抜けた美人」「ずば抜けたエロテク」「ずば抜けて話がうまい」「ずば抜けてオッパイがきれい」といった特性をもっているコで、「まあまあきれいで、まあまあ話が面白く、まあまあスタイルがよく、まあまあのテクニック」だと埋もれてしまうのだ。
  どれもまあまあであれば、また指名して遊びに行くこともあって、そうなればより認知することにもなるのだが、一回しか会ってないと、こういうコよりも、もっと些細な特徴で記憶に残る。

たとえばプレイ中にもメガネをかけていた越谷にあるイメクラのコ。このコは顔立ちもきれいで、話のノリもよく、スケベ度も高かったのだが、それよりなにより私の中では「メガネをずっとかけていた」という事実の方がずっと印象深い。

越谷なので、気楽には行けない場所だが、メガネフェチではない私も、時々このコのことは思い出し、また機会があったら遊びに行くこともあると思う。
私は脇毛が好きなので、脇毛の生えた風俗嬢がいないかと前々から思っているが、剃り忘れてちょっとだけ生えているのはいても、黒木香のように見事な脇毛のコには未だ会ったことがない。その黒木香だって、話し方や顔の特徴とともに、脇毛で強い印象を残したわけで、脇毛を伸ばした風俗嬢だっていていいはずだ。今時、パイパンのコはさして珍しくもなく、それだけでは記憶に残らず、脇毛を生やしていた方がずっと印象深く、客も来ると思うんだがな。

あとは、即尺ならぬ「あと尺」で記憶に残っているコもいる。この日私は時間切れで射精に至らなかったのだが、服を着たあとで彼女はチ×コだけ引っ張り出してフェラをして口内発射をさせてくれた。こういうプレイがあるわけではなくて、たまたまそうなっただけだろうが、予想してなかった展開で、強烈にいやらしかった。
 
  エロテクよりも、話の内容で記憶しているコもよくいる。獣医大の学生と狂牛病の話をしたり、東京芸大のコと「芸大の生徒はスケベが多い」という話をしたことを私はすごくよく覚えている。女子大生だからといって無闇に欲情したりはしない私だが、こういう特徴ある専門をやっている学生は圧倒的に有利だと思う。

もちろん相手が興味をもってくれないと単なる押しつけになるが、自分が強いジャンルをもっていて、そのことを話せば、「ゲームが好きなコ」「卓球でインターハイに出たことがあるコ」「プロなみの雀士」「スペイン語が話せるコ」「生け花名人のコ」といったように認知しやすい。「死体マニアのコ」「万引き名人」といったように認知されても指名にはつながらないかもしれないが。

あるいはプロフィール的なこと、キャリア的なことが印象に残る場合もある。「某有名企業の受付をやっていた」「昼間は商社に勤めている」「AVに100本出ている」「お父さんが元プロスポーツ選手」「高校はフェリスを卒業」「自分と同じ小学校を卒業している」「初体験の相手が70歳」といった具合。これまたネガティブイメージで覚えられるのはよくなくて、「先週まで淋病だった」とか「傷害で前科がある」というのは言わない方がいいかと思うが、「兄が刑務所に入っている」「親がヤクザ」といった話で印象に残っているコが現にいる。
 
  お客さんの中には、最初から常連になるべき相手を探しているのと、一回こっきりのお遊びができればいいのがいて、後者の場合でも、印象に残ったコのことをふと思い出して指名することがあると思う。

これで思い出すのは「花電車」。マ×コでバナナを切ったり、マ×コに筆を入れて書道をやったり、吹き矢を入れて的に当てたりするストリップのワザだ。戦前は、行事がある度、花で装飾した電車を走らせ、これを「花電車」と呼び、「見せるだけで乗れない」ということから、そのようなストリップのワザを「花電車」と呼ぶようになったと言われるが、これは後づけで、本当は私娼街である「玉ノ井」の女が、目立つために頭に大量のかんざしをつけたことに由来する名称だ。

彼女は女学校を出ている才女で、頭はいいのだが、顔の出来が悪くて、なかなか客が集まらない。そこでかんざしをつけることで目立つことを考え、これ自体が「花電車」と呼ばれた。

さらに彼女は頭を使い、客をとらずに芸で人気を博し、この座敷芸もまた「花電車」と言われるようになったのである。

これですよ、これ。今の時代だって、マ×コにペンを突っ込んで、名刺に「また来てね」と書けば、絶対に忘れない存在になれる。キャラによっては「××ちゃんがこんなことを…」なんて退く客もいるだろうが、お笑いキャラであれば客に受けるだろう。温泉ストリップで本物の「花電車」を見たことのない人が「本当にバナナを切れるのか」なんて興味をもって来てくれるかもしれないし、面白がって紹介してくれる雑誌もあるだろう。
 
こういった個性の打ち出しは店がやらせることではなく、店の誰もがやったら面白くなくなるため、自分で考えるべきだ。

もちろん、「マット技では誰にも負けない」「こんなフェラは私にしかできない」といったように、王道のプレイで特色を出すのも手だし、本来はそうあるべきかもしれないが、ここで特色を出すよりも、邪道であろうが、他のことで特色を出した方が簡単だ。遊び慣れてない人に「世界で唯一のフェラ」を披露したところで、理解してくれるかどうかわからないが、手品を覚えて、マ×コから鳩を出したら、どんな客でも驚いてくれ、客は一生忘れまい。

その点ではキャリアのあるソープのおねえさんたちは、それぞれに特色のあるワザをもっていて感心する。椅子洗いやマットでオリジナルの技を入れ込んでいるのは王道の個性化だが、店のサービスとは関係なく、アロママッサージをやってくれたり、塩を使ったマッサージをしてくれる人もいる。

店によっては客に渡すライターなどを用意しているが、そういった既製品ではなく、自分でハンカチやソックスなどのプレゼントを用意している人もよくいる。部屋持ちのおねえさんたちは、自分の好みに部屋を装飾して、個性を出すのもよくいる。

ソープでは、店がサービスを徹底する分、王道のテクニックだけじゃなく、それ以外のところでも個性化を早くから実践してきているわけだ。

どのコについても、同じサービスを受けられる金太郎飴的店づくりだけではなく、個別の女のコの個性を出していくべき時代には、女のコたちの努力や工夫が求められ、その努力や工夫ができる余地を店が用意することが必要なんだと思う。
なんてことを書くと、「私にはそこまでできない」なんて思うコたちもいることだろうが、なにも人にできない技術を身につける、人にないキャリアを積む必要はなく、ちょっとしたことでも個性を出すことは可能だ。

店名は個性的なのに、女のコたちの名前は平凡なのが多い。そのためになかなか名前を覚えられないことがある。「あゆ」「あや」「のりか」「ゆうか」なんて芸能人の名前をパクるのが多い中で目立つんだったら、「イチロー」とか「Gackt」とか「じゅんいちろう」なんて男の有名人の名前をパクッた方がいいかもしれない。一郎という名前のお客がイチローを指名して、「イチローちゃん、僕はもう出そうだよ」なんて言うのはイヤだから敬遠するかもしれないけど。

お客さんの中には、「普段は貞淑、プレイは淫乱」というのを好むのがいて、「淫乱」という演出をするために個性的な行為、個性的なセリフを言ったっていい。

私の覚えているのでは、途中で休憩した時にも、自分でずっとクリをいじって感じているコがいた。このくらいなら誰でもできるだろう。
 
  最近私がすごく印象に残っているのは、射精した精液を拭いたティッシュペーパーを広げてニオイを嗅いでいたコだ。

本人によると、「いつもしているわけじゃないですよ」とのことだったが、「男の人の精液ってみんな同じニオイがしますよね」と言っていたから、時々はやっているらしい。

これも相手を選んだ方がいいだろうが、こんなコは初めてだったため、強く印象に残った。そのあと、ある場で彼女に会った時に、「あっ、精液のニオイを嗅ぐコだ」と思わず言ってしまい、彼女は「そんな言い方しないでくださいよ」とムチャクチャ嫌がっていたが、どうであれ認知されるのは悪いことではないのだ。

フェラも得意じゃない、見た目も特徴はない、努力したり、考えたりするのは面倒臭いというコたちは、せめて精液のニオイでも嗅いでみてはどうだろう。
 
ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに!  
  ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに!  
松沢呉一(まつざわ・くれいち)
1958年生まれ。ライター。音楽から宗教、著作権問題などフィールドは多岐にわたるが、ここ10数年は性風俗産業の取材を中心に活動。その高い見識と飾らない人柄に風俗嬢たちからの信頼も厚く、仕事およびプライベートに関する相談を受けることもしばしば。ときに「風俗指導員」と化している。『ぐろぐろ』、『エロ街道をゆく』(以上ちくま文庫)、『風俗見聞録』、『風俗ゼミナール〈女の子編/お客編/上級・女の子編/上級・お客編〉』(以上ポット出版)、『魔羅の肖像』(新潮OH!文庫)など著書多数。編書に『売る売らないはワタシが決める』(ポット出版)などがある。
松沢呉一

2004.9.7 up

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