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真理子はその後高校を卒業して、都内のイタリアンレストランにウェイトレスとして就職する。寮にタダで入れて、給料が15万。悪い条件じゃなかった。
社会人になってからはいろんな人と遊んだ。思い出深いのは店のお客さんの一人だったヤスヒロ。34歳の証券マンで結婚していたが、なんとなく波長が合って食事に誘われ、渋谷のラブホテルまでついて行った。シャワーを浴びて出てきたヤスヒロは陰部に毛がなかった。奥さんに剃られたのだと言う。ヤスヒロと奥さんはカップル喫茶で知り合って結婚。変態プレイが二人とも好き。ヤスヒロは入れている間と乳首を触るたび、女みたいな声を出して悶えた。性器は大きめで仮性包茎。強くて、最初のときは7回射精した。彼とは何回かカップル喫茶に行った。今までつきあった中では変態度合いが一番強い。恐らくその変態の匂いに惹かれて、最初簡単について行ってしまったんだろうな、と真理子は言う。本当に変態だな、と思うけど、それは嫌ではない。何回も入れたがるところも。別れたのは奥さんが怖くなったからだ。ヤスヒロと会っていると何度も携帯が鳴る。自分のことに気づかれたようだった。そうでなければ今でも会いたいと思う。たくさんセックスしてくれる男は好きだから。
真理子はヤスヒロと別れて、同じレストランで働いていたコック見習いとつきあうようになる。彼とは、飲み仲間として半年くらい遊び歩いて、ちょうどヤスヒロと別れた頃に交際を申し込まれたのだ。望まれるままに真理子は結婚する。一緒に暮らすのも楽しいかも、というのが決意の理由だった。仕事は結婚を契機に辞めた。 |
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しかしこの結婚は2年半しかもたなかった。夫はもともとセックスに淡白で、すぐに真理子を求めることがなくなった。「ああ、もう女じゃなく、『家族』になっちゃったんだな」と寂しく思ったのを真理子は覚えている。
それ以外にも夫への不満がたまってきた。夫は真理子とべたべたするよりもゲームをしたりするのが好きで、結婚した頃は「調理師の資格を取って、ステップアップする」と言っていたのに、結局何にも始めないからだ。そんな夫を見ていて「何か手に職を」と真理子は考え始めたのだという。週に何回か、流れ作業だけれども服を縫う仕事に就いた。けれどそれは長続きしないでやめてしまう。
離婚をするまでは、随分いろんなアルバイトをした。けれども縫製工場以外は夫に内緒で。秘密のアルバイトの最初は、テレクラのサクラ。次にデリヘルのバイトをした。これなら夫にばれずに短時間で働ける。風俗をした理由のひとつは、「そういう仕事に偏見を持ちたくなかった」こと、もうひとつは「そういう業界に興味があった」こと。夫にもっと構われれば、しなかったかもしれないと真理子は付け足す。
そこの店では60分1万8千円。1万円が彼女の取り分だった。1時間1万円ならいいかな、と思ったと真理子は言う。そうしてお金を貯めて、彼女は離婚を切り出した。夫は晴天の霹靂のような反応をしたという。まさか上手くいっていないとは気づかなかったというような。
けれども彼女は離婚することができ、エステティシャンとしての職場を見つけることにも成功した。公の資格がなくても就職できる会社があったのだ。このまま地道に社内の資格試験にトライしていけば、管理職にもなれる。将来は管理職になるのが夢だ。 |
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でも、今は彼がいないんだよね? と聞くと「そうなのぉ。でも遊び友達はたくさんいる」と真理ちゃんは言った。今はヤスヒロの紹介で知り合った男たちを渡り歩く日々。彼らとときどきカップル喫茶に行ってはスワッピングを楽しみ、そこからまた新しい出会いが広がっていくのだという。なんだか彼女は自分を燃やしてくれる、激しい男の出現を待っているように見えた。
一見淡々としているけど、激しいものがあるんでしょう? と聞くと、そう思う、と真理ちゃんは言った。
「今は、本当にいいパートナーと出会えるまで、たくさん冒険して、いろんな体験したいって感じ」
彼女が今まででもっとも体が合うと思ったのはヤスヒロなのだと言う。次が最初のマサル。いろんな体験をさせてくれる男を、彼女は求めている。別れた夫のように、いい人だけれども、セックスに関心のない人では、耐えられない。
「なんて言うか、いろんな新しい体験するとね、新しい自分を見つけた感じで嬉しいの。『あ、あたしこんなこともできちゃうんだ、ここまで感じることもできるんだ』って」
真理ちゃんは瞳を輝かせて言った。「それはセックスによって自分の中の潜在的なものが掘り起こされる感じ? それともセックスすることで自分が新しく変わって、人生も変わるような気がするってこと?」そう聞くと、真理ちゃんはしばらく考えて、「両方」と言った。「そんな気がするから、今はじっとしてられない」と。
そうして真理ちゃんはきっと明日も「冒険」をする。それは彼女の真剣な自分探し。もちろんただハードな体験をしたから人生が変わるってことはないだろう。セックスにはそんな幻想を与える力はあるけれど。でも真理ちゃんはハードさや人数を体験したいだけってわけじゃない。
「ハードっていうより、あたしに合った人? すごく好きになれて、セックスが合って、また結婚したいと思える人が出てくれば、遊ぶのは自然とやめると思う。ただ今はその時じゃないって思うだけ」
ほとんど命懸けともいえる情熱で、自分のセックスを開花させてくれる相手を探す真理ちゃんを、私はとても愛しく思った。写真を撮る時も、うふふ、恥ずかしいと言いながら、どんなお願いも聞いてくれる──。
彼女と別れて終電ぎりぎりの渋谷の駅に向かう途中、私は何度も心の中で彼女の言葉と笑顔をリプレイした。
「ああ、こんなこともできるんだ、と思うとね。新しい自分に生まれ変わった気がするの」 |
(文中はすべて仮名です)
2003.11.14up |
■さかもと未明プロフィール
OLから漫画家に転身。愛と性を生涯のテーマに、コミックのみならず、ルポ、エッセイ、小説と活動の場を広げる。現在、『SPA!』(扶桑社)、『ViVi』(小学館)、日刊スポーツ新聞などで連載を持つかたわら、TVにも出演。多忙な日々を送っている。 |
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