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──彼の家はどんな家だったの? お坊ちゃま?
「お坊ちゃまではないんですけど、教育一家でした。お父さんが高校教員で、お母さんが大学の事務員。うちは父が工場勤務なんで、雰囲気は全然違う、というのが印象です。うちはごく普通で家族の仲もよかったけど、向こうはどこか他人行儀で、お義父さんは外では立派なんだけど、浮気が激しい人だったみたいだし」
──うん。何が幸せかはわからないよね。お義父さんと旦那さんはそういう部分では似ちゃったのかもしれないね。
「ええ、私への態度が、お義父さんのお義母さんに対する態度にそっくりでした。さらに私に対してもお義母さんに対するような態度になって。『あ、私は妻でなくお母さんになっちゃったんだな』って。すごく寂しかった。けれど、そういう話はできる雰囲気じゃなくて、いつも『家のことはしっかりやれ』って言われてて、家の埃とか、食器とか、細かくチェックされました。お義母さんがとても強い人だったんで、無言で私に同じようにしろって求める威圧感みたいなものがあった。別に守らなくてもいいだろ? みたいな。それが辛くて。でも一番辛かったのは、やっぱり浮気ですね。若い子ならともかく、私と同じ年の、しかもバツイチの人だったんで、なんで負けなくちゃいけないのかわからなくて……」
──ああ、わかる。亮子さんてとても激しいものを秘めている感じだもの。形だけじゃだめだよ。いつも激しく愛されていないとだめでしょう?
「ええ、私は蠍座の女だから……。私はできるだけ彼を甘えさせたつもりだったんですけど、彼にとって私が母代わりになるにつれ、彼は外でもっと気ままに甘えられる相手を手に入れたんだなって。なんだかそのへんがどうにも納得いかなかったし、彼は彼で私との間に距離を感じていたみたいで、結局別れました」
それは間違いではなかったと私は思う。彼が好きだったのは彼女ではなくて、女であり、アナルセックスや露出というプレイへの興味が愛よりも先に立つとしか思えないからだ。彼は小説などを読まない人だったという。そういうタイプの人は、感情の細かい行き来を必要とする女性には、辛いばかりなのではないだろうか。 |
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亮子さんはそれからしばらく実家に身を寄せたあとで仕事を見つけて今は一人暮らし。離婚のショックもあって「一人で生きていける力を身につけたい」と会計士の勉強を始めた。夫と別れることが、夫と同じ世界を目指す契機になるとは皮肉なものだ。
「離婚してからは足枷が外れたって思って、はっきり言っていろんな体験をしました。一番はまったのは、28歳の時にカップル喫茶の掲示板で知り合った、家具の販売をするサラリーマン。彼はたくさん抱いてくれました。お互いに休みの時はお昼からホテルに入って夕方までずっとって感じで。すごく幸せでした。彼は3回が限界だったけど。会う時はできるだけ回数多く抱いてくれて」
彼は既婚者だったので、それ以上には進まず、彼女はその後もカップル喫茶の掲示板やインターネットの掲示板などを使ってたくさんの関係を結んだ。その流れの中で見つけた出会いの場が、冒頭のスワッピングサークルだ。
「最初は見学だけって感じで行ったんですけど、一緒にいるとみんな優しいし、怖くない。自然に参加するようになりました。参加を強要されないからよかったのかも。今は気の合う女友達もできたから、サークル感覚で毎週遊びに来ています」
彼女の一番のお気に入りは、自分と男性二人の3Pプレイだ。一人の男性に胸を、もう一人に性器を舐められていると、たまらない気持ちになってしまう。
「でも、前と後ろいっぺんとかそういうのは、ない。私アナルはトラウマあるんで、したくないんです。夫にされても全然よくなかったし、それより前で普通にイキたい」
コンドームをきちんと使用するので、乱交による感染症に関してはあまり恐怖感を感じないと言う。それよりも今はたくさん抱かれることが大切だ。
「どうにも我慢できないって感じ。体が黙っていないっていうか」
彼女もまた、切ないくらい一生懸命、愛されることを求めているのだった。 |
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彼女は言う。
「愛があるっていうか、ただするんじゃなくて、愛されている。そういうのが理想。そういう相手に会えたら、その人だけで、それは十分。心も体も同じくらい愛されたい。それが理想」
耳に自然に入ってくる言葉だ。どんな女性もそんな思いでいるだろうと私は思う。
けれど彼女のかつてのご主人のような人は多い。彼のような男の人は、これからも肉体と心を分けて生きていくのだろうか? それが男の特性なのだろうか? 体と心で同時に求め合う幸せ。当たり前に求めてしまう私たち女に、応えてくれる男は現実には少ない。もちろん男から見たら女はきっと残酷な生き物なのだろうとは思うけど。このすれ違いがほんの少し、たとえ幻想であってもほどけてほしい。互いの心が重なりあう時があったらいい。そう思うからこそ私たちは、毎日行きずりの恋にさえもしがみつく。彼女も。
じゃあ、脱いでくれる? そうお願いすると、亮子さんはうつむいて微笑みながら、服を脱いでくれた。黒い下着に包まれた肢体が現れる。とってもほっそりとしてきれい。まだ31歳。けれどもう31歳。きれいなうちにたくさん抱かれたい、そんなふうに思う年齢──。
もう少し、脱いでくれる? そうお願いすると彼女は静かに決意したように、するりと下着を外してくれた。今日咲かないでいつ咲くの? というように……。 |
(文中はすべて仮名です)
2003.11.21up |
■さかもと未明プロフィール
OLから漫画家に転身。愛と性を生涯のテーマに、コミックのみならず、ルポ、エッセイ、小説と活動の場を広げる。現在、『SPA!』(扶桑社)、『ViVi』(小学館)、日刊スポーツ新聞などで連載を持つかたわら、TVにも出演。多忙な日々を送っている。 |
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