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──ちなみに初体験はいつ?
「それが本当に遅い。私、自分は女の子が好きだという意識はだいぶ前からあったんですけど、どうやって探していいかわからないじゃないですか。で、『アニース』っていうビアンの女の子が買う雑誌があるんですけど、そこの文通欄で知り合った女の子とずいぶん長く文通して。でも体験には至らなかったですね。まだ子供だった。高校は処女でした。そのあと旅行で知り合った愛媛の女の子と遠距離恋愛して。その子は一人暮らしだったんで家に遊びに行って、お風呂でマッサージしあったり、ふざけているうちにそういう気分になって。で、彼女はバイブとか持っていたんで、お互いにって感じで。
ただ、私は男性体験がないので、いまだにそのままのバイブは入れられないんですよ。相手の彼女は男性体験があるので太いバイブでも入るんですが、私は女の子に指を入れてもらったり、ローターか細いバイブを。少しずつ広げてきたって感じ。だから最初の時は指を入れるのがせいぜいって感じで。18か19でした。
で、その頃テレクラなんかで知り合って、男の人にトライしようとしたことが1回あったんですよ。でも絶対駄目だった。もう匂いが生理的に駄目。あと男の舌のざらざらした感じと、発情したときに様子が変わっちゃうあの感じ。内心で『ああ、男って自分の汚さを知らないんだな』ってかわいそうなような、軽蔑のような気分で一杯になっちゃって。あと、男には穴がないんだって、目の当たりにしてそれがショックで。で、ちんこ舐めさせられそうになった時、具合が悪くなったって言って逃げて来ました」
──逃げられてよかったね。それ、かなりいい人ですよ。
「そうかも。でもどうも男子は嫌いですね。子供の頃はよかったんだけどな。思春期の頃、男って女を意識して妙に虚勢を張ったりするじゃないですか。ああいうのがもう目についちゃって、そうなると駄目ですね。雄になっちゃった男は駄目なんですね、きっと。
で、そういう自分がだんだんはっきり自覚できるようになると、もう女しかないって思って。ネットの掲示板とか使って、一生懸命探しましたね。手順はいつも一緒、文通して、盛り上がる相手がいたら会ってセックス。そして続く場合もあれば続かない時も。
とはいえ人数はやっぱ少ないんです。今の彼女に会う前に3人。愛媛の彼女を入れて4人ですよ。あとは妄想してオナニー。SM凌辱編みたいなネタが好きですね。自分が縛られていろいろ悪戯されちゃうの。刃物で脅されるシーンとか、本当にされるのは絶対に嫌だし感じないけど、想像でなら楽しい」 |
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──SMぽいのは基本的に好きなんでしょうね。
「好き好き。一度そういうことに共通の興味がある彼女がいたことがあって、二人して一緒に女王様に責めてもらったの。それがすごく楽しかった。でも、どんな体験より、今の彼女とのセックスが一番です。彼女とはもう一緒に暮らしてるんですけど」
──どうやって知り合ったの?
「インターネット掲示板で、レズビアン&ゲイの映画祭に行く人を募ったんですよ。7人集まって映画に行って、そのうち5人と食事に行って、盛り上がって王様ゲームとかして。で、セックスフレンドになろうってことになったのが彼女でした。自然と恋愛関係になって。青学の短大出て、今は商社で経理やってます。28歳。とってもきれい」
──日本ではまだビアン同志の結婚はできませんけど、将来は?
「ていうか、もう家族みたいな感じなんです。私の弟は、私の性癖知っていますし。彼女は両親をもう亡くしていますし。このまま行けばいいと思ってます」
──素敵。彼女とのセックスはどんなところが素敵? 女同士だと、いつまでも終わらないんじゃない?
「実はそう(笑)。男の人とだと、きっと男の人が終わったら終りなんですよね。でも女同士だと、自分がイッたら相手にお返ししたい。で、向こうもそう思うわけですから、どこまでもしちゃうんですよ。
彼女はね、普段はしっかりしてるんだけど、オッパイ星人で、わたしのオッパイが好きで、すごく甘えてくるの。それがすごく嬉しい。私たち、甘やかしプレイが好きなんです、お互いに『お母さん』なんて言って甘えにいって、片方は子供になってごろごろする。
(いわゆるタチとネコは)固定してません。その時の気分でお互いに。だから不満ないですよ。多分向こうも満足してくれてるんじゃないかなあ。力関係がいい具合に逆転するのっていいと思う。あ、それとね。お互いの足にマニュキア塗り合ったりとか。好きなんです。そういう時、女の人とつきあえるのって、本当に幸せだと思う。女って、なんて綺麗なのかしらって」 |
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素敵だなあ、幸せなんだなあ。ほんわかした気持ちで彼女を見ていたら、彼女の携帯が鳴った。取るなりメイミーの声が甘え声になる。彼女からのようだ。
「うん。もうすぐ帰る。9時には終わるって。え? お腹すいた? そしたら冷蔵庫にイワシあるから食べてて。レンジであっためて。うん。もうすぐだから」
電話を切ったメイミーに、ああ、じゃあ早く帰ってあげてね、と私は言う。羨ましい。エロスと家族を同じ人から手に入れられるなんて。それが一番の幸せだと私は思う。今はみんなそれが分裂しているから、嘘もつかなきゃいけないし、夫婦がみんな抱き合わない。抱き合っても、喜びがない。
メイミーは上着を着て、じゃあ、と席を立った。愛する人の元に帰る彼女は本当に幸せそう。うきうきしている。イワシの晩ご飯、いいな、おいしそう。そう思っていたら彼女が思い出したようにつけ加えた。
「あのね。吸い付くように舐められるのが好きなんです。クリトリスと尿道を一度に吸い付くように。そこを口に含まれているのが好き。彼女のそれが本当に気持ちよくて、そうしていると、彼女と私ってくっついてるんだなって、本当に幸せなの」
メイミーが去った後の新宿のホテルの部屋で、私は夜の歌舞伎町のネオンを眺め下ろしている。日本で一番猥雑な町。どんな刺激的な体験だってできる。でも、それだけじゃきっと人は満たされない。それ以外に、家族の待つ帰る家を手に入れられたらいい。イワシを食べて待っていてくれる相手がいたらいい。メイミーはもしかしたら、眼下に広がるネオンの中の誰よりも、官能の喜びを知っているのかもしれなかった。なめくじみたいにぽってりと、とけちゃうような官能の香りが、なんとなく部屋に残っていた。 |
(文中はすべて仮名です)
2003.12.26up |
■さかもと未明プロフィール
OLから漫画家に転身。愛と性を生涯のテーマに、コミックのみならず、ルポ、エッセイ、小説と活動の場を広げる。現在、『SPA!』(扶桑社)、『ViVi』(小学館)、日刊スポーツ新聞などで連載を持つかたわら、TVにも出演。多忙な日々を送っている。 |
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