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「そんなこんなで、うやむやになっているときに、今度は私の親に問題が起きたんですよ。父親は事業をしてたんですけど、社員が売上を持ち出して逃げちゃって。破産しちゃったんですね。母が看護婦さんでしっかり働いていたので、なんとかなったんですけど。私は学費や生活費を自分で稼がなくちゃならなくなって。水商売を始めたり、そんなことをしているうちに、その彼とは縁が切れちゃいました。
スナックでほとんど毎日働きました。少なくても20万、多いときは30万稼いで。月10万家に仕送りをしました。ひところ精神的にかなり投げやりになって、チャンスがあればいろんな人と一夜限りの恋をしたりしてた。でもそういうのは、自分がすり減るだけだから、もうしたくないですね。そんなとき、電気工事の仕事をしている会社員の人と恋愛して、彼の家で同棲するようになりました。自分のアパート代払いながら仕送りするのは辛かったんで、正直助かりましたよね。
この頃は本当に大変でした。父親はふぬけたみたいになって働かなくなっちゃうし。妹はすごく繊細で、不登校から引きこもり、精神的に病んでしまって。それで父が妹を責める。でも妹からしたら、働きもない父親が何言ってるんだって感じで逆らうでしょ? それでケンカになったりして、家庭がめちゃめちゃになっちゃって。本当に大変だった。このころ妹が家にいられないって、私を頼ってきたんですよね。で、またアパート借りて、面倒みたりして。それで、その電気工事をしてた彼とは別れてしまうんですけど。もう卒業だし、とにかく就職しなくちゃって必死だった年でした。
でもめでたく外資系の会社に就職できたんですよ。3000人の中の40人で採用されて。ただ、いい会社でお給料もよかったんですが、部長にすごいセクハラにあったんです。社員旅行のときに、私の部屋に部長が来て、押し倒されてやられてしまって。それから部長が、まるで恋愛モードに入ってしまって、食事だの、映画だのに誘われて……。私は他に、社内に恋人ができていたので、もう、つらくて。鬱病の症状が出て、会社にいると涙が止まらなくて、とにかく働けなくなったんです。妹はその頃にはもう私のアパートを出ていたから、それは救いだったんですけど。会社にはもういられないし、妹も養わなくていいってことで、辞めました。
でも、正直惜しかったですよ、初年度の年収が400万、2年目で500万、いま同期は26歳で800万になってるって。まあ、ただ激務だったのは確かなんですよ。鬱病になったのは、セクハラだけではなくて、激務のせいもあったんでしょうね。それで、辞めてしばらくは病院に通って、ゆっくりしてました。会社のときの彼とは今もずっと続いてて、それが一番の心の支えです。一番辛かったときに側にいてもらった。体も合うし、ずっと続けたいですね」 |
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「ただ、一つだけ秘密があって。病院に通っていたとき、それでも実家への仕送りは続けていたので、お金がとにかく必要で。3か月だけ、SMクラブで働いたんですよね。普通の仕事がしたかったけど、長時間働ける状態じゃないじゃないですか。お金も何十万かは必要だし。いろいろ考えたけど、背に腹は代えられないって感じでした。ただ、正直なところ、ああいう世界があるってことは、女にとっては救いだと思います。女だと社会では損なことが多いけど、どうしてもの『しのぎ』として稼がなくちゃいけないとき、本当に助かる。
働いているときは、『不思議なパラレルワールド』にいるって感じでした。絶対に表の世界には交わらないけど、常に表の世界の隣にある世界。裏からは表のことがいつも見えるのに、表の女からは、絶対に裏のことはわからない。マジックミラーみたいな世界だな、って思いました。SとMと両方やって。男の人があんまり可愛いんで、びっくりしました。微妙に罪悪感はあるんだけど、その場にいるときは、奇妙な楽しさがあった。
でも、今の彼には絶対知られたくないですね。大切にしたいからこそ、隠しておきたい。今の彼のこと、本当に愛してるんですよ。結婚したいなって。今度こそ、幸せになりたいの。
今は呉服屋さんに勤めてます。まだ実家に仕送りしたりはしてますけど、昔に比べたら、楽になってきたかな。あとは妹が元気になって、父も仕事を見つけられたらいい。私は……今の彼と結婚できたらいいなって思います。家族が仲良くて、好きな人と支え合っていけたら、一番幸せですね。それ以上は望まない。寂しいからっていろんな人と関係しても、もっと寂しくなるって経験したので、もう今の彼だけでいいって。心から思ってます」
そう言って、さゆりちゃんは帰って行った。私は感動で胸が一杯になった。はっきり言ってさゆりちゃんは苦労してる。でも、その苦労が微塵も顔に出ていない。それは、どんなときも彼女が純粋な心を失わなかったからだと思う。経験は女を汚したりしない。
汚れの経験がなくても、心が貧しい女はいっぱいいる。理由があって風俗に行かなくちゃならなかった子を軽蔑するような女が。そんな女たちの1000倍も、さゆりちゃんは『無垢』だ。それは彼女が、家族や恋人のために生きることを知っているからだと思う。
心が綺麗な人は、少しくらい苦労したって汚れない。それはみんなも同じだよ。てぃんくるな仕事をするとき、みんなもいろんな理由があってするんだと思う。水が合えば一生やってもいいし、やめたくなったらやめればいい。それはどっちも間違いじゃないと私は思う。ただ、どうしても理由があってそういう仕事をしなくちゃいけないときも、綺麗な心を忘れないでいようね。好きでやってるならなおさら。男の人や、家族のために頑張れる女の子が、未明は大好きです。さゆりちゃんも、みんなも、幸せになろうね。わたしもみんなに負けないように頑張る。そして幸せになろうと思うよ!! |
■さかもと未明プロフィール
OLから漫画家に転身。愛と性を生涯のテーマに、コミックのみならず、ルポ、エッセイ、小説と活動の場を広げる。現在、『SPA!』(扶桑社)、『ViVi』(小学館)、日刊スポーツ新聞などで連載を持つかたわら、TVにも出演。多忙な日々を送っている。 |
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