松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける著者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。新連載第1回目のテーマは、最近受けた相談から「お店の見分け方」。

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「“一年間は店を辞めない。辞める時は違約金百万円を払う”という誓約書を書かせられたとか」

 これもなーんも知らずに誓約書にサインをしてしまったコから聞いた話。こんな誓約書は法的根拠がないので、すぐに辞めていい。

「あとはギャラを全額その日のうちに支払ってくれない店は要注意だね」

 週給制や月給制になっていて、出勤や指名本数などに従って手当がついたり、遅刻などの罰金が引かれるシステムになっている店では、ギャラは翌週払い、翌月払いになっていてもおかしくはない。この場合は、客が全然つかなくても一定の金額を支払ってもらえるメリットがあるから、一概に悪いとは言えないが、店が潰れてギャラの未払いが生じるなどのトラブルが生じることもある。

 これならまだいいのだが、給料の保証があるわけでもないのに、ギャラの支払いが翌日とか、翌週になっている店がある。さらには半額のみ当日払いで、残りは後日になっている店もある。あえてこんな方法をとっているのは、女のコが辞めないようにしているとしか思えず、こういう店は辞める時に残金を払ってもらえないことがよくある。無条件に避けた方がよさそう。

「そんな店があるんだ」

「東京ではほとんど聞かないけど、この間、福岡で聞いた。東京でもたまに聞くのはギャラをごまかす店。二千円とか三千円とか微妙に金が少ない。単純な計算ミスもあるだろうけど、わかっていてごまかしている場合もある。店がごまかしているんじゃなくて、たいていは従業員がチョンボしているんだけどね。だから、明細書を出すようにしている店の方が安心だよ」

 明細書を渡してくれない店の方がずっと多いのだが、それだけに明細書を出してくれる店は信頼できると言えそうだ。

「だったら、ここは安心。明細書を出してくれて、金額が合っているか、その場で確認してくれて、こっちも確認するようになっている」と彼女は自分のことのように自慢げに言った。いよいよこの店はいい店である。

「病気のケアをちゃんとしている店は他のことでもたいがいしっかりしているよ」と私は続けた。

 医者が血液を採取しにくる、検査キットで検査してくれる、指定の病院に定期検査に行くように勧めてくれるなど、何らかの対策を講じている店である。

「私は店の指定の病院で毎月検査に行っている。自分で選んだ病院に行ってもよくて、その場合も検査料の一部は店が負担してくれていますよ」と彼女はまた自慢げだ。

 ここまでやっているとは全然知らなかった。やっぱりしっかりしている店である。

「だいたい今言ったようなことを基準にするだけでも、“いい店”かどうかはかなりまでわかると思うよ。でもさ、支払いもしっかりしていて、病気の検査もしっかりしていて、出勤も融通がきいて、お茶を挽くようなこともなくて、女のコたちの要望も聞いてくれて、なんて店はなかなかないよ」
「そうなんですか。もうちょっと今の店で様子を見てみようかな」
「もし本当にクビになったら、そのときに探せばいいじゃん。早まることはないって」
「うん、そうする」
区切り

 こんな話をずっとしていたのだが、私は客で来ているのである。店の人には言えないこと、客に言ったところで解決にならないことは私に相談するしかなく、それだけ信頼してくれているってことだが、90分コースで入って60分以上相談事で潰れるのは、いくらなんでもおかしくはないか。

 馴染みのコならまだよくて、見ず知らずの人からメールされてくる相談には腹が立つことが多い。わざわざ回答を送っても、お礼のひとつも寄越さない人もいて、そういう質問は無視するようになった。

 ちなみに、今回ここに書いた話も、ほとんどは『風俗就職読本』(徳間文庫)、『風俗ゼミナール』(ポット出版)などに出ている。私は無料相談所を開設した記憶はないので、人に相談するなら、せめて本を買って読んで欲しいものである。「本に使う無駄な金はない」という方々は、今後この連載をタダで読んで参考にしていただき、自分で解決するように。私の馴染みのコらもこれを読んで、できるだけプレイ中には相談しないでね。
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