松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける著者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。第4回目のテーマは、似て非なるものとよく言われる水商売と風俗業の違いについて。前・後編でお届けします。

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「風俗ではそれよりも素がいいコの方が受けます。顔もスタイルもいいし、服やお化粧のセンスもいい。頭もよくて、非の打ち所がないタイプは水商売ではよくても、風俗では案外ダメです。きれいというより、かわいいタイプが受けます。見た目も性格も。接しやすいというか、気取らないというか」

 プライドという言い方をしてもいいかもしれないが、プライドが高く、自分を晒さず、人を寄せ付けないタイプは風俗では受けない。このタイプでも受けるのはSMの女王様くらいじゃなかろうか。

「この店でも、私から見て“このコはいい子だな”“かわいいな”というコが指名されます。松沢さんが気に入ってくれている純ちゃんは、私から見てもかわいいですよ」

 エヘヘヘヘ。ってオレが照れる筋合いじゃないのか(彼女はその後退店)。

「風俗の場合は肌を合わせるから、ウソはバレる。ウソが入る部分があるとしても、どこまでもウソというのは無理でしょ。最終的には肌が合う合わないだから、そこまではウソをつけない。同じプレイをしても、顔や体は好みじゃないのに、どうしても肌が合うっていうことが女の側にもあるように、お客さんの方にも当然ある。自然さのない無理なサービスをいくらやってもダメです。あと、人気のあるコたちは、みんな好奇心が旺盛で、自分自身、エッチなことを楽しむとか、試みることを楽しむタイプです。そういう積極性みたいなものが風俗で言うプロ意識だと思います。純ちゃんはやっぱりそうですよね」

 彼女は自分自身楽しみつつ、「前立腺マッサージを覚えたい。今度やらせてください」なんてことをよく言っている。かといって彼女は人が良すぎて、クラブでやっていけるタイプではない。

「そういうコたちは、自分を自然に晒せば受けるのに対して、水商売は思わせぶりで引っ張る世界だから、いかに本当の自分を晒さないかです。スタートラインが違うんですよ」

 もちろん、それぞれに例外はあって、風俗でも演技派はいて、思わせぶりで引っ張るタイプもいる。ただ、全体としては、このような傾向が確かにありそう。

「水商売でも、“どうしてこの人が……”っていう例外はいましたよ。水商売の場合は同じテーブルにつくし、そうじゃなくても、どんなことをしているか遠くからでも見えるから、それぞれどうして人気があるのか、だいたい納得できるんですよ」
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 水商売には詳しくない私でも、接客風景を眺めれば、ある程度は「誰が人気があるか」は見抜ける。事実、キャバクラや私にとっては場違いなクラブに行き、その様子を見て、「あのコ、人気あるでしょ」と言うと、ズバリとまではいかなくても、そう大きくは外れない。

「ところが、私たちが見ても、どうして人気があるのかわからないコがいる。そんなに美人じゃなく、地味で目立たないコなのに人気がある。お客さんとのやりとりを聞いていても、どうってことない会話しかしてない。私がそう思うだけじゃなく、仲のいいコたちも、そのコの人気はわからないって言う」

 これってたぶん「二番手戦略」ではなかろうか。クラブにおいては、「いかにウソを作り上げて、客をその気にさせるか」を競い合うわけだが、彼女は最初からこの競争から降りていて、であるが故に客に強く認知されるのだろう。
「そうかもしれない。彼女には、VIPはつかないんですよ。そういうお客さんたちは、人気があって当然のタイプにつく。どちらかというと、お客さんも地味目な人がそのコを指名してましたね」

 VIPは自分の評価に見合う相手、すなわちナンバーワンクラスを狙う。それがステータスなわけだ。

 しかし、お客さんの中にも、たまたま接待で連れてこられただけで、あるいはもっと気楽な店があることを知らないだけで、クラブの世界のハッタリについていけない人がいて、こういう人たちにとっては、素に近い状態で接客しているホステスの方が楽だ。確実にいるはずのこういう層を彼女は拾い上げていたに違いない。

 さて、ここまではまだしもよく聞く話の範囲である。彼女の話でもっとも感心したのは、風俗と水商売の客の違いについてだ。(以下次回)
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