風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける著者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。前回に引き続き、水商売と風俗のお客の違いや、働く女の子の意識の差について考えます。
これについての店長の話はざっと以上なのだが、このテーマはさらに追究する価値がありそうだ。これを考える上で参考になる話をさらに紹介しておく。
知り合いのヘルス嬢やイメクラ嬢が「ソープに移ったので遊びにおいでよ」と連絡をくれることがあって、Yちゃんというコもそんな連絡をくれた一人。彼女は、他の客には誰一人このことを言っていないという。
「だって、ここは高級店だから、前の店の客はどうせ金がなくて来られないでしょ」
たしかに前の店なら数千円から遊べるが、ここは総額6万5千円。私だって金はないんだけどな。
「それに、ソープに移ったというと失望するお客さんもいるから」
いつかはこのコとセックスがしたいと思って通い続けたお客さんにとっては、彼女がソープに移ればその願いが遂に叶うわけだが、彼の願いは「自分だけがセックスすること」だったりして、誰でもできてしまってはつまらんのである。
世の中には、ソープにもヘルスにも行く客がいるわけだが、ソープで知り合っても、へルスで知り合っても、好きになったかもしれないYちゃんが、ヘルスからソープに移動すると失望する不思議さよ。
私の場合はそういう失望がないから彼女はソープにも呼んでくれたのだろうが、彼女とは客で遊びに行きつつも、半ばダチ状態であって、ここが他の客とは違うところかもしれない。
また、ソープの客の中には「ヘルス上がり」というのを嫌い、「ソープで風俗デビュー」を好むのがいるため、ソープの客にもすべては言わない方がいいみたい。同様のことは女王様でもあって、ヘルス嬢から女王様になったのを嫌うM男さんもいて、彼らは女王様からヘルスやスソープに移ることももちろん嫌う。今までのようなプレイができなくなるためではなく、彼らにとっては彼女自体が堕落した存在になってしまうからだ。
同じクラブでも、値段の高い店から安い店に、銀座から新宿に移ることを嫌がる客もきっといるんだろう。相手のことがイヤになるだけではなくて、「安い店に行く自分がイヤ」なんである。
こういう場合、自分のことをやっぱり考えてしまう。かつて私がまだ「風俗ライター」などと名乗っていなかった頃は読者だったという人によく会う。事実、単行本の部数を見ると、歴然と落ちているから、そういう人は決して少なくないことがわかる。その頃だって、エロのこと風俗のことを書いていたりしたわけだが、非風俗ライターが風俗のことを書くのと、風俗ライターが風俗のことを書くのでは、中身が一緒でも受け方が違うんである。「風俗ライターじゃなかった松沢は好きでも、風俗ライターの松沢は嫌い」あるいは「風俗ライターじゃないライターが好きな自分は許せても、風俗ライターが好きな自分は許せない」ってわけだ。
ソープの場合は、大衆店に移ることで客が増えて収入は変わらないとか、場合によっては増えるということもあるわけだが、ライターの場合は、風俗ライターになって原稿単価が落ちることはあっても、上がることはないような気がする。その上、単行本の部数が減るのだから、いいことは何もない。
「こういうことを書いたら読者に受けるから、ウソを書こう」などと計算尽くで原稿を書く必要はないが、生き方についてはもうちょっと計算した方がよかったな。こういう計算をしないところはやっぱり私は風俗体質なんだと思う。
前のページへ
プロフィールへ