松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける著者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。今回から7回にわたり、営業メールの極意について探ります。

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さて、そのあと、彼女が出勤する日、急遽、仕事が入って行けなくなってしまった。私は行けなくなったことを伝え、「ごめんよ。でも、ますます会いたくなったよ」とメール。対して、「私もすごく会いたいヨ」と返事が来た。
「その気持ちだけで十分すぎるくらいに嬉しいわ! お仕事頑張ってね。早く会えるように、私も頑張ります」
ここでも決して「早く来て」とは言わず、控え目感があるし、どこまでも貸しを作るようなことはしていない。
このメールでは「お仕事頑張ってね」と、水商売や風俗嬢の営業メールや名刺に書き込む典型的なフレーズが使用されている。これが単体で書かれていると、面白くも何ともないが、その次の「早く会えるように」という一言が、凡庸なフレーズではなくす効果を発揮している。よく考えると、彼女が頑張ったところで、早く会えるわけではないのだが、この際、論理的な整合性など必要ない。
ところで、このコに限らず、今時の小娘は日常会話ではまず使わない「~わ」「~だわ」「~わよ」「~わよね」という語尾をメールで使用するのがよくいる。直接の会話と違って、声もヴィジュアルもないため、女であることの強調なり確認なりとして、女言葉が復権しているのではないかとも私は想像している。レナちゃんのメールでも、この語尾が適度に使用されていて、女らしさとラフさがうまくミックスされている文体だ。
区切り

 彼女はこのあと、急に店を辞めてしまった。私はいい店だと思っていたのだが、彼女はやり方が合わなかったと言う。
新たな店を探しているというので、電話で相談に乗ったこともあったのだが、以来、電話もメールも途絶えた。こちらから「その後、どうなった?」とメールを送ったのに、返事はなし。「あの野郎、店探しの時はああも人の意見を聞いておきながら、店が決まったら、これかよ」と私はムッとした。こういう女って多いものなのである。
それから半月くらいしてメールがあった。「なかなか連絡とれなくてごめんなさい。一刻も早く松沢さんに報告したかったんだけど、体調が悪くて、中途半端な気持ちで会うのは失礼だと思って……やっと落ち着いたので、新しい店のことを報告します。(略)また松沢さんにいかせてもらいたいな。時間があったらまた寄ってね」
見事である。やられた。メールのテクだとわかっても、この文面だと全然腹が立たないものである(その後会ったら、彼女が体調を壊していたのは事実だった)。
いつもと違って丁寧で奥ゆかしい言葉の間に「いかせてもらいたい」なんて大胆なことを書けるのもメールのいいところだ。電話じゃなかなかそうはいかないですからね。
区切り

  メールのいい点は、相手と会っていない時でも、気持ちをつなげておけることだ。それほど意味のある内容じゃなくても、「元気?」「忙しい?」なんて程度のことで十分なので、時々メールを送ってくるコのことは、ずっと気になって、メールがなかったなら、それっきりになったかもしれないのに、また会いに行こうと思う。
レナちゃんとも、それほど頻繁に会っているわけではなく、1年以上会っていなかった時期もある。これだけ間があくと、それっきりになってしまいがちだが、その間も、メールのやりとりをしていれば会っていないような気がしない。メール自体、間があくこともあるが、間があいても「久しぶり」と気楽に送れ、1年空いて会いに行くことの敷居の高さをメールが下げてくれる。
初対面ではあまり話が弾まなかったのに、メール交換しているうちにうち解けることもよくあって、とても1回しか会ってない相手だとは思えなくなる。
区切り

  私は東京にいない時でも東京の風俗嬢たちと、あるいは東京にいる時でも東京以外の地域にいる風俗嬢たちとメールをやりとりしていて、特に取材旅行先では移動が多くて、その暇潰しにもメールを送る。
数ヶ月会ってなかった風俗嬢に札幌からメールをした。。
「そんな遠くにいるんだ。松っちゃんのいない東京は淋しいよ」。
東京にいたって、数ヶ月会ってなかったんだから、いまさら淋しがってもしゃあないと思うが、こう書かれて悪い気はせず、急に会いたくなったりする。。
「オレも淋しいよ。東京に戻ったら、すぐに会いに行くね」。
「早く帰ってきて」。
恋人同士みたいでしょ。。
また、旅先でメール交換をしていた風俗嬢の一人に「東京に戻ってきた」とメールを送ったら、こんな返事が帰ってきた。。
「なんか松沢さんが帰ってきたと思ったらムラムラしてきた」。
これを読んで私もムラムラして、2日後には会いに行った。。
このメールのような、「かわいさときわどさ」、あるいはレナちゃんのような「奥ゆかしさと大胆さ」の共存が傑作メールの基本であり、営業メールにしても、「今日は暇だから、遊びに来て」だけでは味気なさすぎ、素っ気なさすぎで、営業であることがあまりに見え見えだ。ここでエロい言葉を交えることで、露骨さは緩衝され、「今日は暇だから、私のウルトラマ×コを見に来て」と書いてくれた方がずっと行く気になるってもんだ(続く)。

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