松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける著者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。 「メールの極意」第4弾は、筆者がこれまでに女のコたちからもらった佳作、傑作、名作メールをご紹介。

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区切り

  メールは出すタイミングも大事。店を出た途端に「久々に松沢さんの顔が見られて嬉しかったです。また気持ちよくさせてください」などとメールを送ってくるコがいる。
これをやられると、余韻が強化されて、「ああ、いいコだったなあ。また来よう」って気にもなる。
人によっては、「せっかく頭を切り換えようとしている時なのにしつこいな」なんて思うのもいるかもしれないが、一般に「後メール」は効果があると思う。
プレイ前は愛想がいいのに、プレイ後は事務的になって送り出すコより、プレイ前はあっさりでも、プレイは濃厚で、帰り際に情熱的なキスをしてくれた方が受けがいいのと一緒で、メールでも「呼ぶ時はねっとりとしつこいのに帰りはあっさり」より、逆の方がいい。

直後じゃなくて、仕事が終わってから時間をかけて書いてくれるコもいるし、「当日はどっちみち忘れるはずがないから、翌日、ダメ押しのメールをした方がいい」って考えるコもいる。この辺は個性が出ますな。

逆に会う前のダメ押しメールをするコもいる。メールで本人に今日は出勤しているかどうかを確認したあと、店に予約を入れ、「4時から行くよ」と報告のメールを入れておく。普通はこれでおしまいだが、「早く会いたい」「早く会いに来て」とメールをくれるのがいる。「うん、わかった、4時に待っているね」ではなく、早く行こうにも行けないことをわかった上で、こういうメールをくれると、こっちも早く会いたくなって、その時間までワクワクしていられるんである。

この類で、ものすごいメールをくれたコがいる。本人に出勤を確認し、店に予約を入れて間もなく、こんなメールが届いた。

「今日はすごくいい日です。だってもうじき大好きな人と会えるから。4時に待っているね」

こんなことを書かれたらメロメロですぜ。これができるということは、私が出勤を確認した時点で、「松沢って人から予約が入ると思うので、入ったらすぐに教えてください」ってフロントに頼んでいるのである。その意味では自然な感情を吐露したのでなく、計算し尽くされたものなのだが、そういう背景をわかった上でもメロメロだ。電話ではさすがに言えないだろうから、メールならではの深みのある傑作中の傑作である。

タイミングで言うと、すでに引退したランちゃんがすごかった。彼女はどちらかというと、メールよりも電話が多かったのだが、「最近どうしているかな」と思っていると、そこに彼女から電話が入るのだ。彼女は4年間風俗嬢をやり、デビュー1週間目から引退まで客として遊びに行っていたのだが、それもこれも、この絶妙なタイミングによるところが大だ。彼女とて計算していたわけじゃなく、つきあいが長いため、二人の気持ちがシンクロしやすくなっていたんだと思う。

彼女は引退した今も「どうしているかな」と思うと、メールや電話をくれる。


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  では、最後にもうひとつ傑作メール。

風邪が流行っていて、私も3日間寝込んでしまい、ようやっと復調したその日に、高松のハッスル(西日本では「おさわりパブ」のことをこう呼称する)の麻里ちゃんからメールがあった。なにしろ高松だから、そうそう会えるわけではないが、今まで何度か書いているように、このコは本当に仕事熱心で、高松に行く時は必ずと言っていいくらいに彼女を指名しており、私のところにもよくメールを送ってくれる。

「風邪をひいて4日も寝込んでしまった。今年の風邪はひどいぞ」

これはいろんな人に送っているメールだろうが、返事を出すと、彼女はちゃんと個人宛の返事をくれる。この時、私はこんな返事を出した。

「オレも。熱だして死ぬかと思った」

すぐに返事。

「死ぬな、生きろ」

私はさらに返事。

「わかった。生きる」

そして麻里ちゃんからの返事。

「限りなく生きろ(はぁと)」

ユーゴーが本の売り上げがどうか確認するために出版社に「?」と出し、出版社は「良好」の意味で「!」と返事を出した、有名な手紙のやりとりみたいで、見事な返し方である。さすが麻里ちゃん(続く)。

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