さかもと未明
第九回

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「仁」の巻
第9回 「仁」の巻
だいぶ涼しく秋らしくなってきたね。体は楽だけど、一番油断して風邪をひきやすいとき。みんな気をつけてね。
 さて、今月も未明は素敵な漫画に出会ってしまったよ。日本の漫画って改めてレベルが高い。紹介したい漫画がたくさんあって困るような時代に生まれて幸せだなって思ってしまった。そんな気分になったのは、スーパージャンプ(集英社/隔週水曜日発売/定価260円)連載中の『仁』を読んだから!
 一見時代物で舞台は江戸なんだけど、主人公の南方仁(ーーーって、エースをねらえ!の宗方仁を意識してのネーミング? 謎だわ)は実は現代の東京からタイムスリップした医学生。歴史ものなのにSFっていうムチャな設定なんだけど、納得してしまうのは『RON~龍~』でおなじみ村上もとか先生の画力と構成力、真摯な制作態度ならでは。
 仁は現代の医学知識をもって江戸に行ったもんだから、当然その技術が注目をあび、勝海舟の知遇を得るわけね。そうして江戸において腕のたつ医者として活躍するようになる仁は、郭(くるわ)の主人を治療したことがきっかけで、吉原の遊女たちが、当時治療不能な重病に苦しんでいるのを知るわけよ。それは今でいう『梅毒』。今でこそ治療が可能になったけど、当時はかかったら死ぬしかない病。それもひどい症状に何年も苦しんだあげくのことなのね。
 この『仁』では当時の梅毒の恐ろしさや、それを知っていてなお遊郭で遊びつづける男と、病を恐れつつも働くしかない女たちの悲しさ、ある意味でのいい加減さをつぶさに描くことで、日本人の性格的特徴と当時の文化を描くことに成功しているの。勉強になるよ~。そして目が離せないよ~。この漫画は!!
 読んでいると、あたしたちはあることに気がつくんだ。これは江戸のこととして描かれているけれど、現代の問題とちっとも変わらないんだってね。だってさ、いまだってエイズとか恐い病気はあるよ。でも男はそれを知ってて風俗を求めずにはいられないし、女だって、リスクなんてわかってはいるけど、ないことにして働かずにいられなかったりするわけじゃない? 人間の問題なんて、今も昔も変わんないんだよね。
 そりゃさ、そんなことに関わらずに安全に生きていけるならいいよ。大きな会社に入って、いいお給料もらって働ける人はいいよ。あるいは家族もいないならさ、危ない橋なんて渡らなくたっていいんだ。でも、誰もがそんなふうに生きられるわけじゃない。大きな会社入りたくたって、中卒や高校中退じゃ入れてくれなかったりするし、入れてもらってもバカみたくお給料安かったりするしさ。事情があって家族を養いたい、とか、どーしても借金返さなくちゃいけないとか、そんな時にたとえば女の子なら、風俗に足をふみいれることだってあるかもしんない。あたしだって食うに困ったらするかもさ、だからせめてそれを選ぶ場合はさ。女の子は自分の体と気持ちを守る方法と情報を手にしてほしいな、と思うんだ。病気になってから「知らなかった」なんて泣いても遅いじゃない? だれも助けてくれないんだからさ。だから皆には、是非こういう漫画読んで、自分の身の守り方と、将来のこと考えてほしいと思うんだ。
 病気のことだけじゃなくて、この吉原の章は、花魁のこととっても詳しく描いていて勉強になるし、なにしろ面白いよ。あたしはもともと花魁ものが好きなんだよね。華やかで、奇麗で、女そのものの世界って感じでさ。いまでいうとフードルってやつかな。女だったらフードルになって、いろんな男からお願いされてみたい気持ちってあるもんね。そんなフードルの姿を、江戸ではこんなだったんだよって、表の華やかさだけでなく裏の厳しさや悲しさもちゃんと描いてあってさ。すごく骨太な花魁ものとして楽しめます。そして現代に移し変えて、同じところと違うところを比較して考えるのにすごくいい教材になると思う。てぃんくる読者のみんなだからこそ読んでほしい漫画です。単行本もでているから是非読んでね!
■さかもと未明
OLから漫画家へ。レディースコミック、エッセイ等各誌で連載を持ち、最近「文學界」で小説デビューも果たす。著作は「ゆるゆる」(マガジンハウス刊)「だって幸せになりたいんだもん」(朝日ソノラマ刊)等多数ありのスーパーお姐さん。