第10回 「あさきゆめみし」の巻
またてぃんくるnet読者に紹介しなくちゃいけない漫画の名作をみつけちゃったワー! それは大和和紀先生の「あさきゆめみし」。とっくに連載は完了して、最近文庫本のセットでまた発売されたんだけど、「まとめて読んでみるかな」って買って読み始めたらとまらないー! もー本当に面白いのよ。
この作品はみんなご存知『源氏物語』の漫画化されたものなんだけど、いくら『源氏』が有名だからって、原文でなんてまず読めないじゃない? 私は昔、円地文子さんっていう小説家の現代語訳にトライしたんだけど、これまた途中で挫折した経歴の持ち主でさ。つまりこれだけ高名でありながら、全部を読むのは実に大変な作品であるわけよ。
ところが漫画なら、いかに難しい古典でもカンタン! 私が読めたんだから、皆だって簡単に源氏物語の世界に入り込むことができるよ。是非読んでみてほしい。
簡単にその構成を説明しますとですね。これは平安時代の貴族たちの愛の物語なの。主人公はその名も高き「光源氏」。これが大変な美男子だって設定なの(実在ではありません。念の為)。当時は結婚のかたちが『通い婚』ていってね。女の人のところに男性が通って夫婦の契りを結ぶかたち。貴族の男性はそうして正妻のほかに何人もの妻をもったわけ。だからといって、とことん乱婚ってわけではなくて、やはり女性は一番初めに誰のお嫁さんになるかがとても大切。身分の高い人と夫婦の契りを交わした人は、つぎに身分の低い人と契ってしまうと身分が落ちてしまうから、やっぱり身分の高い男が何人もの妻をもつようになるわけね。源氏がたくさん浮き名を流せたのは当然ながら本人に身分と財力があったから。妻となった人は夫が面倒を見るわけだから、いくら源氏とはいえ、 100人の妻をもったわけではないの。そのへんを押さえておかないと、この物語はわからない。
結局は正妻と第一夫人、第二夫人、愛人などとの間で嫉妬による葛藤もあるしね。今とあまり変わらないっていえば変わらないんだけど。とにかく身分の高い男は、たくさんの妻を持てたわけよ。そして帝といわれる天皇の祖先たる身分の高い人のためには、たくさんの女官がつかえている。江戸時代の将軍のための『大奥』を想像してもらえるといいかな。
女性の一番の出世は、この帝のための女性として内裏といわれる宮廷に上がって、その子供を産むことだったわけ。昔から、身分の高い低いよりも、美しさや優しさで男の心を捕らえるのが宿命だから、身分の低い女官が、帝の跡継ぎのため男の子を産んでしまうこともあるよね。だから女の人たちの嫉妬合戦たるや大変なものだったの。
そんな社会の中で、帝が比較的身分の低い女性『桐壺』の女御に産ませたのが光源氏。これが美しいわ利発だわで、帝の寵愛を得て権勢を誇り、様々な女性と浮き名を流していく。相手の女性たちがそれぞれに個性豊かで心優しく魅力にあふれ、きっと彼女らのうちの誰かに、みんなは自分を投影することができるんじゃないかな。
けれど、たくさんの恋に身をやつしながら、源氏にはどうしても忘れられない人がいるの。それは桐壺亡きあと帝が寵愛した、桐壺によく似た藤壺の宮。つまり、母にもよく似た父の妻を、源氏は愛してしまうわけね。やがて帝が死ぬ前に、源氏は遂に藤壺と契ってしまうわけよ。これは当時では大変な反逆罪。だって帝の妻を寝取ってしまうわけだらーーー。
この恋がやがて様々な問題を巻き起こしながら、物語は進展していく。ただの恋の物語ではなくて、宮中での権力闘争や男と女の嫉妬の構造がしっかり描かれてるのが、この『源氏物語』の魅力だと思うのね。ただ恋の物語のように思われている源氏だけど、実はとても骨太な社会のドラマになっているのですよ。そのへんがこの物語が、二千年も愛されつづけている理由なんじゃないかな。若くても、大人になっても繰り返し楽しめる深みを持っている。どこから切っても楽しめる、金太郎飴みたいな作品なのよ。
それが円熟期の大和和紀先生の流麗な絵でつづられるもんだから……。もう、歴史的な名作です! 是非買って読んでみて下さい。
病気のことだけじゃなくて、この吉原の章は、花魁のこととっても詳しく描いていて勉強になるし、なにしろ面白いよ。あたしはもともと花魁ものが好きなんだよね。華やかで、奇麗で、女そのものの世界って感じでさ。いまでいうとフードルってやつかな。女だったらフードルになって、いろんな男からお願いされてみたい気持ちってあるもんね。そんなフードルの姿を、江戸ではこんなだったんだよって、表の華やかさだけでなく裏の厳しさや悲しさもちゃんと描いてあってさ。すごく骨太な花魁ものとして楽しめます。そして現代に移し変えて、同じところと違うところを比較して考えるのにすごくいい教材になると思う。てぃんくる読者のみんなだからこそ読んでほしい漫画です。単行本もでているから是非読んでね!
■さかもと未明
OLから漫画家へ。レディースコミック、エッセイ等各誌で連載を持ち、最近「文學界」で小説デビューも果たす。著作は「ゆるゆる」(マガジンハウス刊)「だって幸せになりたいんだもん」(朝日ソノラマ刊)等多数ありのスーパーお姐さん。