第13回 『火の鳥 』の巻
あたしは泣いている。もー今月は睡眠不足の毎日が続いて辛くて辛くて。でも、夢中で読んでしまう、そんな漫画に出会ってしまったのよ。泣いているのは辛さのせいじゃなくて、感動のせいなんだけどさ。その漫画はなにかって? それこそ、かの手塚治虫先生のライフワーク『火の鳥』よ! みんな、何を差し置いても、この漫画だけは読んで欲しい。ほんとうに感動できること、保証だから!! この作品は主に日本の歴史に基づいた連作でね。全 12巻の各巻が、それぞれ別の時代の別のキャラクターの物語として楽しめるの。でも、どの時代にも共通して出てくるキャラクターがいる。それが「永遠の命をもち、死ぬときは燃えて灰の中から何度でもよみがえる火の鳥~フェニックス~」なのよ。
この火の鳥の生き血を飲んで、永遠の命を手に入れようとする人間たちの物語が各巻で繰り広げられるんだけどさ、時代や設定が違っても、永遠の命や権力を求める人間の宿命っていうのは、いつも一緒なんだよね。そんな凄く深いテーマのせいで、各巻は常に漫画を超えた感動満載! 最初は「ちょっと読んでおくか」ってくらいの気持ちで読み始めたんだけどね、もう読み始めたら止まらないのなんの。毎日泣いてしまってさ、次が気になって、全巻を一週間弱で読まずにはいられなかったよ。こんな感動って本当久しぶり。
いやー。昔の漫画には本当に凄い名作があるです。やっぱし手塚治虫先生は天才よーー!
女の子としては6巻目のSF仕立ての『望郷編』に感動したので、今回はこの巻を紹介しようと思います。
さて、これは「女」という性の壮大な物語です。地球の田舎の小さな島で生まれたロミという女の子は、あるとき都会からきたジョージという男と熱烈な恋をします。でも、二人はただ普通に結婚というわけにはいきません。
ジョージは人口が爆発的に増加した地球のため、密かな任務を負ってその島にきていたからです。その命令というのは、その自然でいっぱいの島を巨大な人工の島に作り替え、100万人を移住させろというものでした。ジョージはロミと駆け落ちを決心します。しかも政府からあずかった島の改造予算を盗み出して。つまり二人は二度と後戻りのできない旅に出たわけです。
二人は地球から遠く離れた無人の安い星を買い、そこに移住して暮らそうとしました。その星の名は「エデン17」。でも恐ろしいことに、その夢のような名の星は、なんの資源もない、荒れ果てた土地だったのです。地球に戻ることのできない二人は、悪徳不動産業者に、インチキ物件を売りつけられたようなものね。
でも二人はくじけません。水を掘り、畑を耕してシンプルに生きていこうとします。なのにその途中、井戸を掘ろうとしたジョージが器材の下敷きになって、死んでしまうの! なんて恐ろしいこと。ロミはたったひとりで、その荒れた島に残されることになります。
でもね、ロミはジョージの子供を身ごもっていたの。ロミはその子と交わり、やがてこの星を二人の子供でいっぱいにすることを思いつきます。そしてそれを実行するため、子供の養育をロボットに任せ、その子の成人をまって出会うために、ロミは十数年の眠りにつくのです。
それからは本当に母性の力強さの物語よ。エデン17の地に子供が満ちるようにと、何度も眠り、覚めては、子供を産むロミ。なんちゅーか、母性って限りなく愛をそそげる力なんだなって、その執念と限りのなさにノックアウトされちゃいます。産んで、育てて、地を耕して、なんて働き者のロミ! それもたった一度の愛であるジョージとの約束のためによ!!
てぃんくるな仕事をするみんなの中には子供や夫、病気の家族のためなどなど、いろんな理由で体をはって働いている人が多いと思う。そんなみんなに「頑張ろうよ」って、ロミの生き方は教えてくれる気がするのね。
そしてその仕事を終えたあとのロミがさ、やっぱり生まれた星の地球に帰ろうとするわけ。二度と帰りたくないと思って捨てた故郷に、あたしたちがある時帰りたくなるみたいにさ。
結局ロミは地球で死ぬことになるんだけどさ、最後ロミは苦労ばかりだったエデン17に骨をまかれたいと思うのね。最後のページで滅んだエデン17の砂漠のような風景の前にロミとジョージが最初この星に来たときの希望に満ちた台詞が再現されるんだけどさ。それが泣けるのよ。
「あなた、ロミよ。帰ってきたわ。ほら」「お帰り。まっていたよ」「もうどこへも行かないわ。ここがあたしにとって一番幸せなところよ」「そうとも、これでもとに戻ったんだ。ここはぼくたち二人の星だ」「ジョージ、あたしを抱いて。さあ!!」
贅沢もなんにもなくても、ただシンプルに愛する人と暮らして、そして抱き合えれば、幸せなんだよね。てぃんくら~なみんなもさ、あたしもそれがわかっていても、やっぱ多少お金が必要でさ、虚飾の都会で頑張ってるわけよ。でも本当に大切なのは、簡単なことだよね。ただ、愛があればいいんだよねって、すごく感動させてくれるんだ。この『火の鳥 望郷編』は、辛いとき、頑張らなきゃいけないとき、疲れて帰りたいとき、「もういいよ帰っておいで」と、あるいは「もう少し頑張ろう。いつでも故郷は変わらないよ」と、どちらかはわからないけど、きっとあたしたちに語りかけてくれると思うんだ。
この漫画は悩んだとき、あたしたちに答えをくれる、そんな気がするよ。だからぜひみんなの本棚に加えてみてください。感動は未明が保証するからさー!!
■さかもと未明
OLから漫画家へ。レディースコミック、エッセイ等各誌で連載を持ち、最近「文學界」で小説デビューも果たす。著作は「ゆるゆる」(マガジンハウス刊)「だって幸せになりたいんだもん」(朝日ソノラマ刊)等多数ありのスーパーお姐さん。