第14回 『ベルサイユのばら 』の巻
てぃんくる読者くらいの世代の子たちって「ベルサイユのばら」を読んだことがあるのかしら? 私くらいの世代ではね、だれもかれもがこの漫画の虜になったもん。そりゃもー「ベルばらブーム」って凄かったんだから!
今回なぜ急にベルばらなのかというと、復刻版の文庫で読んで、再びその魔力にハマッテしまったからなの。どんなに年月がたってもベルばらはいいよ、泣けるよ。しかも大人になってから読むとなおさらいいの!! で、紹介させてもらうことにしましたっっ。
「ベルばら」は余りにも有名なフランスの王妃マリー・アントワネットの生涯を中心にした壮大な歴史物語。フランス革命に至る社会状況と当時の宮廷での権力闘争を背景にしながら、アントワネットとフェルゼンの恋、男装の麗人オスカルとアンドレの恋などが描かれていくんだけど、これが近年のどんな漫画にもないくらいドラマチックで、感動的なんだなー。涙なしには読めないよ、ホント!
ちなみにマリーと王室一族、フェルゼン、首飾り事件のジャンヌなどが実在の人物で、オスカルとアンドレは池田理代子大先生の創作であります。私は小さいころずっと、オスカルは実在の人物だと思っていたんだけどね。そのくらいしっかりと存在感のある人物が描かれているんですよー。
このベルばらの凄いとこは、少女漫画であったにもかかわらず、階級や貧富の問題、権力と戦う民衆、そんな民衆を理解しないで富裕階級の奢りや腐敗が、ちゃんと描かれているところ。この辺が大人になって読む醍醐味なんだけど、小さいころは、やっぱりヒラヒラのドレスを着ている貴族のお姫さまが好きだったわけよ。男なんかも、フェルゼンとかジェローデルがいいな、と思っていたわけ。ロベスピエールなんて貧乏だし、変なカツラみたいなヘアスタイルだし、ミラボー伯はとんでもなく不細工だし、アランは粗野で嫌だわ、なんてね。
ところが大人になって読むとそれがひっくり返るんだなー。アランやアンドレなんて最高よね! 近衛兵と衛兵隊の違いなんていうのもやっと今になってわかったし、ロベスピエールも好きになった(革命のあとは粛正の限りを尽くす怖いひとなんだけど)。ミラボー伯やオルレアン公の凄さもわかっちゃった。つまり、みんな命をかけて民衆の生活のために戦っているし、貧しいながらも誇り高く生きようと必死で生きているわけよ。このへんにもうすごーく感動しちゃう。
てぃんくる読者のみんなも大人だから、生きていていろんなことがると思うのね。で、学生のころはさ、大抵の問題は「もう少しお小遣いがあったら」くらいで済むんだけどさ。大人になると「やっぱ社会って不平等だ」とか「実際は日本も階級ってあるよな」「職業の差別もあるよな」みたいな問題が出てくるわけじゃない。そんなときにどう生きたらいいか、自分と似た悩みをもっている人が、きっとベルばらの中にいると思うんだ。ぜひ一度読んでみて欲しい。
意外なところで私はジャンヌっていう、王妃を相手取った「首飾り事件」っていう詐欺の犯人になるオンナが結構好きなの。この子悪くてねー。貧乏が嫌いで、豊かな宮廷生活に憧れて親兄弟を捨て、人さえ殺し、嘘の限りを尽くしてのしあがっていくのよ。でも、その必死さが分かるんだよね。私もあのくらい貧乏だったら、「一度しかない人生、贅沢を知って死にたい。女だものきれいなドレスを着たい、何もくれない無力な親より、お金をくれる人のほうが大切」って思う気がするんだ。正直なところ。
そんな私たちの心の本音のままに生きるのがこのジャンヌって子でさ、私は実は小さいころも気になってたし、大人になって読むと一番共感できる人物なんだよね。つまりは私も育ちは良くないってコトなんだけど(笑)。彼女の破滅と、それと反対に市民生活の中に戻っていって愛を見つけるロザリーの対比なんてとってもおもしろいと思う。まじで読んで欲しいなあ。
私はね、欲望のままに生きるのも、愛を求めて貧しく生きるのも、どっちも自分が信じるならいいと思ってる。やるなら徹底的にやるべきだってね。ただ、大切なところでやり過ぎると破滅すんのよ。あるいは自分自身の迷いに心が痛めつけられてしまうの。そこのところをうまく乗りきるための処世術の本としてね。私はこの本をお薦めする。太鼓判だよ!! 今回も私はほぼ二日徹夜で読んじゃったもんねー。
もうすぐ春です。暖かくなったり、寒くなったり、不安定だから風邪引かないで。頑張ってね。
■さかもと未明
OLから漫画家へ。レディースコミック、エッセイ等各誌で連載を持ち、最近「文學界」で小説デビューも果たす。著作は「ゆるゆる」(マガジンハウス刊)「だって幸せになりたいんだもん」(朝日ソノラマ刊)等多数ありのスーパーお姐さん。