第10回『花闇』の巻
今月おいらは、すごーく感動の珠玉のレディコミに出会ってしまったよ。安藤なつ先生の「花闇」(La Comic 6月号)がそれ。昭和40年代の昼メロを感じさせる、日本の情緒と情念タップリのメロドラマは。いつのまにか汚れた大人になっていたおいらのハートに、懐かしくも切ない恋へのあこがれを呼び覚ましたね。
物語は京都にあるらしい「十三詣」のシーンで始まる。それは子供が13になると、方輪寺というところで知恵を授けてもらうお参りなんだけど、帰りに渡月橋を渡るとき、途中振り向いてしまったら、授けてしまう知恵を失ってしまう、というお参りなんだ。
主人公の千里は幼い自分が振り向いたのかどうなのか、おもいだせないでいる。千里はもう30も半ばの独身の女性だからもう、20年以上前の話しだ。親から引き継いだ旅館の女将として生きている千里には見合いの話しが引きも切らないが、千里は結婚せずにひとりでいきていくことを決めている。それというのも、心に決めた男がいるからだ。その男は斉木といい、結婚している。斉木は「妻が病弱で子供も産めない。そんな彼女と離婚するのは不憫すぎる。君には済まないが、どうしようもないことなんだ」といいながら、時折出張の途中で千里の旅館に立ち寄るだけだ。斉木を信じる千里はそれを幸せに思っていたが、結婚できないならせめて子供だけでも欲しい、と思うようになる。
けれど子供を望む千里に斉木は戸惑い、だんだんよそよそしくなる。折しも千里の旅館に、斉木の妻が偶然泊まりにくるのだが、彼女は斉木の話とは違い、絵に描いたようなわがままな有閑マダム。そして二人の子供を産んでいることまで分かってしまうのだ。 「あのひとは嘘をついていた・・・・・・」純粋に信じていただけに、深く絶望する千里。そしてあることを彼女は決意し、事件が起こっていく・・・・・・。
ね。なんか夏樹静子ミステリーとかの世界って感じでしょー? 今時の女とは思えない千里の純朴さが怖いちゅーか。心に決めた男のためならなんでもする女の恐ろしさー
!
読んでいて『なんでこんな初歩的な男の嘘にひっかかるのー? この男分かり安すぎー!
千里のバカー!』と叫びたくなってしまう。そのくらい千里の純粋さが心に響いてくるんだ。
千里はもしかして十三詣の時に橋の上で振り向いてしまったのかも知れないよね。そのくらい、女としては「おばかさん」。でも羨ましいな、と思うのは、今時の情報社会で賢くなりすぎちゃって、男の嘘にもはまれない、恋さえできない私たちとの違い。一心に男を信じ、恋に焦がれることのできる千里は、たとえ騙されていたとしても、ずっと激しい恋に身をゆだねていたわけだよね。だからこそそれが嘘と分かったときのリベンジが怖いのだけどもさ。みんな だったら、嘘の恋でもいいから10年騙されてみたい? それともバカえを見ることなく、10年出会いもなしに生きていたい? 女にとっての究極の選択だと思うんだけどさー。この話を読んで。『それでも女は恋に燃えなくちゃ! 騙され上手が恋上手、人生どれだけ狂えるかが勝負!』なーんて思ってしまったのでした。『あと、真面目な女ほどセックスはエロいんだろなー』なんて余計なことまで。この作品、エッチは押さえ気味だけど、ところどころにすごく嫌らしい女の情念が描写 されてて、そこがなんともいやらしーのよー。みんなも是非読んで見てね! 恋する女ほど素敵なものはないですよ。
■さかもと未明
OLから漫画家へ。レディースコミック、エッセイ等各誌で連載を持ち、最近「文學界」で小説デビューも果たす。著作は「ゆるゆる」(マガジンハウス刊)「だって幸せになりたいんだもん」(朝日ソノラマ刊)等多数ありのスーパーお姐さん。