第11回『千年少女』の巻
本当はずっとエロティックな少女でいたくない? いろんな男を翻弄して、自分の上であえぎ声を出させるの。けれど一人の男に女神としてあがめられたいとも思わない? 普通 の男には滅多にできないことだけど、エロティックな部分を恐れずに愛してくれる男に、「結婚したい」って言わせたくない?
巨匠、矢萩貴子先生の「千年少女」(アムール5月号)はそんな女の本音を120パーセント満足させるレディコミ。普段は地味なOLの斉藤容子が夜毎妖艶な風俗嬢「ベアトリーチェ」となって、男達を翻弄するの。
けれど容子は自信満々に幸せな毎日を生きているわけでは決してないわ。会社では冴えないOLとして馬鹿にされ、スケベな上司にひどいセクハラをうける。「おまみたいに地味な女の処女を奪ってやっただけでもありがたく思え」なんて暴言をはかれながらヤられるなんて、おなじ女として、許せない! こんな男には天誅が降りなくてはいけないわ。頑張れ容子ちゃん! と私たちは社会の男への不満で主人公と一心同体となるの。
化粧をするとトンだ美人に化ける容子ちゃんは、私たちのそんな恨みを晴らしてくれる。普段建て前だけで生きているから弱い女に対しては傲慢極まりない男たちの精液を搾り取り、その仮面 をはぐべく会社や奥さんに「通報」の電話を入れる。「もしもし、安西部長の奥さん? スゴイこと教えてあげようかー? あのねー、部長ねー、会社でセクハラしてますよー。部下の斉藤容子って女に関係強要してんのーお。ヤバいんじゃない?訴えられたらクビ飛ぶよお。確実に」
そうよ、容子ちゃん! 清貧なフリして醜い本音を家の外の女にぶつける男たちなんてメチャメチャにしてやってーー! わたしたちはそんな容子の行動に、すんごいシンパシーを覚える。こんな風に痛快に男達に復讐したい女ってきっといると思うのー! けれど「ちょっと待ってよ」と容子の腕をつかむ男が現れる。容子の行動を全部知った上で「愛してる。結婚しよう」とささやく男が現れるのよ。なんて夢みたいな展開。男って結婚用には清楚な女。エロティックな女は外で遊んで使い捨てるーーーそんな風に女を使い捨てるのが普通 なのに、この男はエロティックな容子をそのまま受け入れたいというの。
ねえ、滅多にないけれど。こえは女の理想の愛の形だよね。カラダとココロ全部いっぺんに愛されるなら、女は男をもう恨んだりしない。男の見栄と体面でできた社会なんて吹き飛ばす愛に出会えたら、昨日まではどんなにビッチな女だって、聖母さまのように優しくなれる。残酷な少女から、慈しむ母にとなれるのよ。
愛を得た容子ちゃんが生まれ変わろうとした瞬間、悲劇は起こる。今まで容子ちゃんがしてきたことへの報復のように、失脚した男たちの復讐の手が、容子とダーリンの前に襲いかかる。どうなってしまうかは、原作を是非読んで欲しいのだけど、最後、容子は再び「ベアトリーチェ」として少女のまま、夜の街にまたさまよいでることになるの。けれど今度は残酷な少女ではなく、男の愛、というものを信じ、夢見る少女としてね。
レディコミって、時にこんな風に凄く深く、女のエロスや社会の問題、男の弱さをえぐる名作が出てくるんだよね。たたエッチなだけではなくてすごく深い矢萩作品。どこかですれちがうことかあったら是非読んで下さいね。 まだまだ梅雨がじとじとしんどいけれど。これを過ぎたら素敵な夏がやってくるから!みんな元気に梅雨を乗り越えてください。未明も頑張ってまーす。
■さかもと未明
OLから漫画家へ。レディースコミック、エッセイ等各誌で連載を持ち、最近「文學界」で小説デビューも果たす。著作は「ゆるゆる」(マガジンハウス刊)「だって幸せになりたいんだもん」(朝日ソノラマ刊)等多数ありのスーパーお姐さん。