レディコミ人生劇場
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第15回『ヴィーナスのしたたり』の巻
気持ちのいい秋晴れの日は、なんだか仕事をするのが勿体なくなっちゃう。私は10月生まれのせいもあるかもしれないけど、秋は一番好きな季節です。みんなはどう過ごしてる?

 で、今月もセクシー、レディコミのナビゲート。Lady’s comic Ayaにのっていた「ヴィーナスのしたたり」(美里綾子/原作ボネ鏑木)をご紹介したいと思いま~す。

 主人公聖子はこの前までOLをしていたんだけど、今は風俗嬢。恋人の借金の保証人になってしまったがために、多額の借金を背負ってしまったのね。しかも恋人は失踪してしまってふんだりけったりの状況の聖子。当然仕事はやる気なし、なんだけど、気のない相手からも触れられると感じてしまう。その快楽にごまかされるようにして、日々をやり過ごしているのね。

 そんな聖子を借金ごと買いとったというがスーツ姿の男、朝倉が現れ、聖子を南の島に連れていくの。朝倉の雇い主がその島のオーナーで、その島で夜毎催される「接待」要員のひとりとして、彼女を買いとったのだと聖子は聞かされる。

 自分が買いとられた「もの」だということを忘れてしまいそうな、島での豪華な生活。麻薬を投与され、朝倉に惹かれながらも、他の数々の男達に望まれるままに体を与える聖子。それは女の心に潜む、正直な欲望のカタチよね。美里先生はそういった世界を描くのが本当に上手。名作「密の味」(光文社/価格530円)に描かれてるのも、そういった世界だった。女って、たったひとりに愛されるだけじゃ足りないのが本音。時には売春婦となって、たくさんの男に身をゆだねたい。自分の体に値段がついたらどんなにいい気持ちかしらって思うんだよねー。そのへんを見事にカタチにして見せてくれる美里先生の手腕に今月も脱帽です!普段キチンとしているアナタこそ、美里先生のマンガのなかで思い切り羽を伸ばしてほしい。キレイな絵で、女のエグイ願望の代償行為を楽しませてくれますから!!
レディコミ
けれどそれだけじゃないの。この作品を読み終わった後、私は妙な消化不良の気分になって、いろいろ考えてしまったわ。物語の後半、主人公聖子は雇主に言われるの。「顧客をたくさんつけて、いい接待ができれば、この島での待遇はどんどん上がる。休みのときにはだれとセックスをしようと自由だし、その相手も自分で選べる。だから頑張ってね」と。朝倉に思いを寄せていた聖子は、朝倉に抱かれる日を夢みながら、接客に励み、やがてその島での頭角を現していく。最後聖子は朝倉とのセックスも目の前となり、いうの。「これからは、私は自由に生きるわ、ヴィーナスのように」

 セックスの虜となることを究めることで、聖子は自由になったように、一瞬見える。島では一番のホステスだし、好きな男とのセックスも思いのまま。けれどそれは閉ざされた島のなかのみでの、自由なのよね。一歩間違えれば海にほうり投げ出される、板子一枚下は地獄の状況…。

 この作品は、女の子の願望の代償行為なだけじゃなくて、女の子が陥りやすいセックスの地獄をちゃんと描いています。セックスを売ることによって、女の子というものが表社会から締め出され、消費されていくシステムが描かれていて、なんだかちょっと恐い話しに仕上がっています。てぃんくる読んで、夜の町で働く女の子たちにはとくに読んでほしい内容★!

 私自身、漫画で売れないときには夜の町で働いたこともあるし、てぃんくるな女の子たちのことは応援したい! けれどもいつも思うのは、みんなは夜の町を利用してもいいけど、利用されたり消費されたりしないで欲しいってことなんだ。だからね。たまにこんな作品読んで、ただ消費されるだけの女の子にならないためにはどうしたらいいのかを、ぜひ考えて欲しいんだ。夜の町は、最初女の子にすごく優しい。でもいつか女の子が搾りとられて終わっていくことが多いんだよ。ほんの少しの賢さが、女の子には必要なんだってこと。気持ち良さに溺れるだけではだめなんだってこと、レディコミには沢山の人生のヒントがつまっています!

 今日はすこしお説教っぽくなっちゃったかな? でも、この不況のご時世。お正月を無事に迎えるためにも! 借金と保証人と甘い言葉にはご用心。レディコミ読んで、世渡り上手な女の子になってもらえたら、と思っていますのでーす。キラキラと夜の町を上手に泳ぐ女の子になって下さいね!
■さかもと未明
OLから漫画家へ。レディースコミック、エッセイ等各誌で連載を持ち、最近「文學界」で小説デビューも果たす。著作は「ゆるゆる」(マガジンハウス刊)「だって幸せになりたいんだもん」(朝日ソノラマ刊)等多数ありのスーパーお姐さん。