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法的トラブル相談室-第5回-

法的トラブル
お金に仕事に恋愛問題、そんな日常のトラブルを解決する法律のなるほど。後藤弁護士がズバリ解決!

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質問
酔っぱらって、タクシーの中で熟睡。
目的地を間違えられた!
イラスト

会社の忘年会の帰り、かなり酔ってしまったので、飲んでいた店の前からタクシーに乗りました。運転手さんに自宅の住所を言ったあと、熟睡してしまい、「着きましたよ」と起こされて目を開けたら、着いていたのはぜんぜん違う場所。とにかく、そこから家まで戻ってもらったんですが、なんと、店から間違って行ったところを回って家に着くまでの料金を全額とられたんです。酔って気が大きくなっていたので「高いな~」なんて言いつつ払っちゃったけど、よく考えたら運転手にも責任はあるはず。もしかして、全額払う必要なかったの?

(25歳・これからは終電で帰りますさん)

・タクシーで熟睡していたら間違った目的地につれて行かれた
・間違った目的地を回って家へ着くまで、全額の料金を請求された
質問
酔っ払い相手に十分な確認をしなかった運転手の責任は重い!

タクシー会社には、乗客を安全に目的地まで運ぶ義務があります。これを果たせなかった場合、「そのミスやトラブルは注意を怠らなかったのに起こった」と証明できない限り、タクシー会社側の過失責任はなくなりません(商法第590条)。
このケースでは、運転手がなぜ目的地を間違えたのか、が問題になります。終電で帰りますさんは、「ちゃんと目的地を言ったのに、運転手さんが聞き違えた」と思っているでしょうし、運転手の言い分を聞けば、「お客さんが間違った住所を言った」ということになるでしょう。
終電で帰りますさんは酔っていたので、言葉がはっきりしていなかった可能性は大アリ。また、途中で間違いに気づかなかったのも、すぐに眠ってしまったせいです。こう考えると、運転手は悪くないような気がしてきますが、じつはそんなことはありません。十分にロレツが回らず、座ったとたん眠ってしまうほど乗客が酔っているのなら、運転手は相手が酔っぱらいであることを踏まえて、より慎重に目的地を確認しなければならなかったのです。こうしたケースで運転手が責任を問われないのは、何度も目的地を聞いたのに乗客が答えなかった、目的地の言い間違いを乗客自身が認めた、などの場合です。
終電で帰りますさんが明らかな酔っぱらいだったのにもかかわらず、運転手に目的地を聞き返されたり、途中で起こされて確認されたりしていないわけですから、落ち度があるのは確認を怠った運転手のほう。間違えた場所を回った分まで料金を払う必要はありません。店から自宅までの距離から料金を計算してもらい、その分だけを支払えば十分でしょう。

質問
弁護士・後藤法律事務所所長
後藤 邦春

裁判官を15年間務め、1989年より民事専門の弁護士に転身。帝京大学にて法学・労働法の講師を担当するなど、若い女性の「法的トラブル」相談者として活躍中。ペットは猫派。