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法的トラブル相談室-第31回-

法的トラブル
お金に仕事に恋愛問題、そんな日常のトラブルを解決する法律のなるほど。後藤弁護士がズバリ解決!

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質問
私あての宅急便を預かった
隣人に、中身を壊された!
イラスト

  旅行先ですてきなグラスを買い、ホテルから宅配便で自分あてに発送しました。配送を頼んでいた日、仕事から帰ると隣のAさんに「宅配便を預かってるわよ」と声をかけられました。Aさんの家にも荷物が届いたので、ついでに私の分も預かってくれたそう。そのままAさんの家に寄り、玄関先で受け取ろうとしたとき、Aさんが手を滑らせて荷物が床にガシャン! お互いに一瞬、固まってしまったけど、その場で責めることもできず、とりあえず家に持ち帰りました。でも開けてみたら、やっぱり全部割れていました。Aさんに預けたりしなければ、こんなことにならなかったのに! 悪いのは、勝手に隣人に荷物を預けた宅配便会社? それとも荷物を落としたAさん?

(25歳/高かったのにさん)

・自分あての荷物を、運送会社が勝手に隣人に預けた
・預かった隣人が、手を滑らせて荷物を壊した
質問
明らかに非があるのはグラスを壊した隣人です

 宅配便会社では、それぞれ「宅配便約款」を定めています。宅配便約款とは、利用者と宅配便会社の間の契約をとりまとめた決まりのこと。事故などが起こった場合は、この約款に従って損害賠償などが行われることになっています。
 多くの会社の宅配便約款では、本人が不在の場合、隣人などに荷物を預けることがある、と定めています。ですから、荷物を預けたこと自体は契約違反には当たりませんので、勝手に預けたということにはなりません。しかも、この質問ではAさんは明確に預かる意思をもって預かったということですから、約款に従う限り、宅配便会社に債務不履行はなさそうです。また、宅配便会社に債務不履行があったとしても、Aさんが手を滑らせて壊すことまで予見できませんから、荷物が壊れたこととの因果関係はないということで、宅配便会社に損害賠償を請求するのは困難と考えられます。
しかし、荷物を預かり、送り先である本人に届けるのが本来の宅配便会社の義務です。そのため、約款でも原則としては不在連絡票を置いて持ち帰り、営業所などで保管するものとしています。それが原則なのですから、宅配便会社は荷物を隣人に預けず、不在連絡票を入れて会社に持ち帰るべきだったといえます。仮に、隣人の明瞭な承諾もなしに預けた場合には、宅配便会社のしたことは債務不履行(民法第415条)に当たると考えられ、損害賠償を請求することができるでしょう。
 一方、他人のものを預かった人には、預かった以上は、それを注意して取り扱う義務があります。Aさんの、手を滑らせたという不注意な行為は「十分な注意を払わなかった」ことになるため、Aさんは損害賠償などの請求に応じなければなりません。
 しかし、Aさんは好意で預かってくれたのでしょうし、今後のご近所づきあいのことも考えると、Aさんに損害賠償を請求するのも難しいでしょう。

質問
弁護士・後藤法律事務所所長
後藤 邦春

裁判官を15年間務め、1989年より民事専門の弁護士に転身。帝京大学にて法学・労働法の講師を担当するなど、若い女性の「法的トラブル」相談者として活躍中。ペットは猫派。