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法的トラブル相談室-第59回-

法的トラブル
お金に仕事に恋愛問題、そんな日常のトラブルを解決する法律のなるほど。後藤弁護士がズバリ解決!

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質問
接客態度を注意しただけで泣きだしたA子。
私がいじめたことになるの?
イラスト

  新しく店に入ってきたA子、顔はかわいいけど、お客様へのマナーが全然なってない!
うちはわりと高級感のある店なので、接客態度は大切なポイント。店長から仕事を教えてあげるように言われていたので、「お客様にいきなりタメ口はダメ。きちんと敬語で話して」と注意したんです。そしたら彼女、いきなり泣きだして、私にいじめられたって店長に言いつけた!
A子にとってはショックだったのかもしれないけど、私は仕事を教えただけ。今までの後輩にだって同じようにしてきたのに、泣かれたこともなかったし……。私のしたことって、いじめなの?

(25歳/お局さん)

・後輩のA子に接客態度を注意した
・A子が泣きだし、店長に「いじめられた」と言いつけた
質問
相手が泣いたからといっていじめたことにはなりません

  いじめの問題で難しい点は、「ここまでしたらいじめ」という、はっきりした決まりがないことです。極端な例を挙げれば、誰かに冗談半分で「バカ!」と言った場合、言われた側が気にしなければいじめではありません。でも、言われた側が本気で受け止めて傷ついてしまった場合は、いじめと見なされることも。セクハラ(性的いやがらせ)と同様、言った側がどういうつもりだったかではなく、被害者側がどう感じたかが大きなポイントになってくるのです。
では、お局さんの例について考えてみましょう。店長に泣いて訴えたことから、A子さんが「お局さんにいじめられた」と感じていることは明らかです。では、お局さんは有罪か? といえば、このケースではセーフ。いじめかどうかを見極めるときは、被害者側の気持ちに加え、社会的な常識も判断材料のひとつになるからです。お局さんは仕事上の注意を口頭でしただけ。発言の内容に、悪意やA子さんを傷つけようとする意図は感じられません。先輩として後輩を指導・教育するのは、大切な仕事の一部です。A子さんが傷ついて泣いたとしても、それは本人が未熟なせい。お局さんがいじめたと見なされることはないでしょう。
このようなケースでいじめにあたるのは、相手の人格を傷つけるようなことを言う、大声でどなるなど、常識的に考えておかしいと思われるとき。いじめがあったと認められた場合は、不法行為となりますので、慰謝料の支払義務が発生する場合もあります(民法第709、710条)。

質問
弁護士・後藤法律事務所所長
後藤 邦春

裁判官を15年間務め、1989年より民事専門の弁護士に転身。帝京大学にて法学・労働法の講師を担当するなど、若い女性の「法的トラブル」相談者として活躍中。ペットは猫派。