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法的トラブル相談室-第62回-

法的トラブル
お金に仕事に恋愛問題、そんな日常のトラブルを解決する法律のなるほど。後藤弁護士がズバリ解決!

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質問
込んだ電車の中に揚げものの香りが充満!
通勤電車で、弁当食べるな!
イラスト

  仕事帰りに電車に乗ったら、急に揚げもののニオイがプーン。なんと、座席に座った若い男のコがお弁当を食べてるんです。新幹線みたいな長距離列車ならわかるけど、普通の通勤電車。かなり混んでいて、立っている人もたくさんいるのに。本人はおいしそうに食べてたけど、こっちは油のニオイで気分が悪くなりそう! これって、法律違反にならないの?

(消化不良さん/23歳)

・込んでいる通勤電車の中で弁当を食べている人がいた
・揚げもののニオイで気分が悪くなりそうだった
質問
「車内で弁当を食べない」は
マナーだけでなく法的義務です

通勤電車内で平気で弁当を広げて食事をしている路線が、本当にあるとのことですから、この問題は切実ですね。
よく考えてみると、電車は食堂ではないし、喫茶店でもありません。通勤電車は大勢の通勤客が乗車しており、本来、飲み食いをするような場所ではないことは、誰でも理解できることで、この点は長距離列車とは異なるところです。
これを法律的に見てみますと、鉄道会社と乗客は、旅客運送契約を結んでおり、乗客はある場所からある場所まで移動するために電車に乗るわけです。鉄道会社は、乗客を安全にその目的地まで運送する義務を負うということになります。
一方で、乗客も鉄道会社と運送契約を締結しているのですから、契約関係を規律する信義則上[※社会共同生活の場において、お互いに相手方の信頼や期待を裏切らないように、権利の行使や義務の履行を誠実に行わなければならないとする法理。]の義務があります(民法1条2項)。乗客としては、旅客運送契約の他方当事者としての信義則上の義務として、当該旅客運送契約の趣旨に反するような行為をすることはできないものと解されます。
したがって、通勤電車内で、ほかの乗客が気分を害しているのに、迷惑を顧みず弁当を広げたりしていることは、乗客としての信義則上の義務違反となり、ほかの乗客から訴えがあれば、鉄道会社はそれを真摯(しんし)に受け止め、迷惑をかけている乗客に注意し、それでも改めなければ、義務違反を理由に契約を解除して、場合によっては、下車してもらうことになるものと考えられます。
以上のことは、弁当の場合だけでなく、ほかの迷惑行為についても妥当するものですから、迷惑行為が著しい場合は、勇気を持って鉄道会社に申告し、鉄道会社から契約関係に基づく措置を講じてもらうようにすべきだ、ということになります。

質問
弁護士・後藤法律事務所所長
後藤 邦春

裁判官を15年間務め、1989年より民事専門の弁護士に転身。帝京大学にて法学・労働法の講師を担当するなど、若い女性の「法的トラブル」相談者として活躍中。ペットは猫派。