風俗指導員・松沢呉一の店外講習
風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける筆者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。今回取り上げるのは、男心を萎えさせる「下手なセリフ」。前回の「きわどいセリフ」の逆バージョンです。
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風俗嬢を見ていて、「下手だなあ」とよく思うことがある。例外もあるんだが、たいがいこういうコは指名本数が少ない。

「いいセリフ」の話は今まで何度か書いているが、今回は「ダメなセリフ」について書いてみよう。

私自身、「そういう話はしない方が」と思う筆頭は、店のコの陰口や根拠があるのかどうなのかもわからない噂の類。ある程度仲良くなってからならそういう話もありだと思うし、はっきり根拠のある話だったらまだしもだが、「この店で人気のあるコたちはみんな本番をやっているんだよ」「雑誌に出ているあのコは、客受けはいいけど、表と裏が激しくて、すっげえムカつく」「あのコ、今年になって二度も子どもを堕ろしているんだよ」なんて話を初対面でされると、「こいつにこそ問題があるんじゃねえの?」と思ったりもする。

風俗嬢に限らず、陰口ばっかり言っているような人間はそれだけで敬遠され、そういう人に下手なことを言うと、よそで何を言われるかもわからないため、信用されない。ライターでもそういう人がいて、陰口を叩けば叩くほど、本人の知らないところでそのことが話題になって「陰口男」としての評価を高め、本人が陰口を叩かれることになる。

また、仲良くなれば別だが、お客さんに対する露骨な悪口もどうかと思う。悪口って、言っているうちに沸々と怒りがこみ上げてくることがよくあって、その怒りが共有できないこっちとしては、聞いているだけでだんだん怖くなってくる。『風俗ゼミナール/女の子編』(ポット出版)に、「前のお客さんがしつこくて、なかなか帰ってくれなくて、遅れちゃってごめんね」「他のお客さんと違って、あなたはいつも気を遣ってくれるので、すごくありがたい」といったように他の客をダシにして言い訳したり、目の前の相手を持ち上げるのもありだと書いたが、これも程度によりけりで、「他のお客さんは全員大嫌い。死んじゃえばいいのに。私が一緒に死んでもいいと思うのはあなただけよ」とまで言われるとさすがに退く。本気でもウソでも退く。そんなことまで言った女は今まで一人もおらんわけだが。
続いて、「一部の客には有効だが、一般的には言わない方がいいかもしれない言葉」。以前だったら男しか言わなかったようなセリフを若い女のコらが口にするようになってきている。たとえば、「たまっている」とか「すっきりした」とか。

プライベートのセックスで、男の顔を見るなり、「最近してないからたまってるんだよ」と言ったり、セックスのあとで「あー、すっきりした」と言うのは許せる男も多いように思うが、風俗嬢だとちょっと微妙。

すでに結婚して引退したが、歌舞伎町のイメクラにいたMちゃんというコは初対面の時からイキまくり、プレイのあとで、こう言っていた。

「先週、生理で休んでいたから、たまってたの」
「1週間でたまるか」
「たまる、たまる。1週間もかからないよ。私、土日が休みだから、毎週、月曜日はたまってる。でも、平日もいつもこんなんかな(笑)」

この店のスタッフとは仲がよくて、以前から彼女のスケベぶりの噂を聞いていて、彼氏がいる時でも、それ以外にもう1本2本調達しないではいられないコである。

こういうスケベっ子が私は好きなんで、これ以降も何度か遊びに言ったが、「あなただからこんなに感じたのよ」ではなくて、「とにかく男が好きでしょうがない」という印象をあからさまにすると、退く客もいる。イカせ好きはいいとして、「なんで高い金を払っておまえの欲求不満を解消しなきゃならないんだ」と思うのだっているだろう。

スケベっ子好きの私でも、たとえば「いつもこんなに濡れるのか」と聞いて、「私、感じやすいからすぐに濡れるの」と答えられると、「誰が相手でもいい」ってことになって面白くない。誰が相手でだろうとすぐに濡れるのだとしても、「こんなに濡れるのは初めてです」とか「相手次第です」と答えた方がいいだろう。
 
  先日、ある風俗店でミーティングがあった。店長と主要メンバーとが集まって、「どうやったら指名を増やせるか」「どういう態度やテクに客は弱いか」「どういう態度やテクで失敗したか」といった経験談を語ったり、女のコたちから店への不満を述べて提案をしたり、店も女のコたちへのお願いをする、といったようなもので、和気藹々とした雰囲気ながら、とても皆さん真剣で、いい店だなあと感じ入った。

私はたまたま参加しただけなのだが、いわば外部のアドバイザー的な立場からの発言も求められた。その中で、「客に他の女のコを推薦するのは相手を見ないと危険」という話をした。相手が店の中でいろんな女のコと遊んでいて、自分がそのうちの一人でしかないことがわかっている場合や、つきあいが長くて何を言っても理解し合える客なら大丈夫だろうし、客の側から「いいコいる?」なんて聞いてきた時や、「そろそろこの客は自分に飽きてきたかな」と思う時はいいのだが、自分だけを熱心に指名している客にこの言葉は禁物だと思う。

そう言ったら、このミーティングに出ていたSちゃんというコが、「私、そういうことよく言っている。よくないのかなあ」と告白。彼女としては純粋に、「この人だったら、××ちゃんを気に入るかもしれない」とか「私より××ちゃんの方がうまく接客できそう」といった好意から言っていて、そういう意味ではホントにいいコなんだが、客によっては、「もう来なくていいよ」って言われたような気がして、そのコのことを気に入ってれば気に入っているほど淋しいかと思う。仮に言うとしたら、「でも、絶対に私のところに戻ってきて」というフォローを必ず入れておくことだ。

他のコたちからは「初めて来た客に“彼女になってくれ”と言われて、“うん”と答えたら、“彼女だったら、もう店には行かなくていいだろう”と電話がかかってきて困った。どう答えるのがいいのか」なんて質問も出た。こういうタイプの客に、「彼女にはなれないけど、また来て欲しい」なんて言ったところで、二度と来ないだろう。あえて言うなら、「お店ではいつでもあなたの彼女だよ」なんて答え方が模範解答だろうが、初対面で「彼女になってくれ」と申し出るような常識が欠如したヤツを常連にするとあとが大変なだけなので、その場で「イヤだ」とはっきり答えるのもまた模範解答かとも思う。
 
この質問をしたコはこんなことも言っていた。

「どこか褒めなきゃと思って、どんな小さいチ×コの人にも“すっごいチ×コが大きい。こんな大きいのを見たのは初めて”と言っていて、どうもリピーターにならないので、失敗したかもしれないと思って、言うのはやめた」

こりゃ明らかに失敗だろ。

「相手を見て言え」と私は叱責。

「だって、松沢さんがなんでも褒めろって本に書いていたじゃないですか」

たしかに『風俗ゼミナール/女の子編』にそのようなことを書いている。

「いやいや、褒めるところがなかったら、鎖骨でも褒めろという話は書いたけど、小さいチ×コを大きいと言うのはマズいだろ」

あの原稿には思ってもいないことを言うのはウソになるとも書いていたハズだ。自分で気づいた相手のいいところを照れずにためらいなく褒めてあげればよくて、思っていないことや現実とまったく違うことを言って、相手が「オレのチ×コのどこが大きいのか言ってみろ」って怒り出したら、言い逃れしようもない。

「他に褒め方があるじゃないか。“形がきれいですね”とか、“角度がすごいですね”とか。でも、小さいことを悩んでいる人には何を言ってもイヤミに思われるかもしれないから、チ×コには一切触れない方がいいかもしれないよ」と私はアドバイスした。

「小さいと悩んでいる人だから、“大きい”と言われたら嬉しいんじゃないの? しかも、私たちみたいにたくさんチ×コを見ている女のコに言われたら、“そうかな”って思わないのかな」

「思わないって。身長150センチの人は自分の背が低いとわかっているんだから、“こんな背が高い人、初めて見た”って言われたら、明らかにイヤミ、あてつけの類だろ。それと一緒」

あるいはAカップのコに「こんな巨乳は初めて見た」と言ったら、ほとんどのコはムッとするだろう。かりにオッパイについて触れるのであれば、「いい形をしているね」とか「乳首がきれいな色をしているね」とか、他に言いようがあるってものだ。

店長も私に続いた。

「身長とかチ×コの大きさって、男にとっては決定的なコンプレックスになる箇所だから、小さい人はほとんど小さいってわかっているよね。それで勇気がなくて彼女ができなくて、風俗に来ている人だって多いんだから、それは言っちゃマズいよね」

「えーっ、ショック」と彼女。

あれだけ男に接していても、こういう話って、オープンに語り合わないと、なかなかわからないものである。各店舗の皆さんも、こういうミーティングを開いてみるといいかも。

なお、このミーティングでは、誤解されかねないことを言う場合には「いい意味で」とつけるといいという話も出ていた。単に「老けている」というよりも、「いい意味で歳より上に見えますね、落ち着いていて」なんて言うわけだ。でもなあ、「いい意味で、チ×コが小さいですね」って言ってもなあ。
 
ご愛読ありがとうございました。松沢呉一さんの連載は、今後『てぃんくる』誌上でお読みいただけます。9月24日発売の『てぃんくる』289号をお楽しみに!
松沢呉一(まつざわ・くれいち)
1958年生まれ。ライター。音楽から宗教、著作権問題などフィールドは多岐にわたるが、ここ10数年は性風俗産業の取材を中心に活動。その高い見識と飾らない人柄に風俗嬢たちからの信頼も厚く、仕事およびプライベートに関する相談を受けることもしばしば。ときに「風俗指導員」と化している。『ぐろぐろ』、『エロ街道をゆく』(以上ちくま文庫)、『風俗見聞録』、『風俗ゼミナール〈女の子編/お客編/上級・女の子編/上級・お客編〉』(以上ポット出版)、『魔羅の肖像』(新潮OH!文庫)など著書多数。編書に『売る売らないはワタシが決める』(ポット出版)などがある。
松沢呉一

2004.4.30 up

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