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- 第14回
●風俗嬢が引っ越したわけ
しばらく連絡をとっていなかった風俗嬢がいます。
彼女は東京近郊に住んでいて、そこから都内まで通ってました。
風の流れと雨によって放射性物質が降り注ぎ、ホットスポットになっていると言われる地域です。
彼女は子どもがいますから、どうしているのかなと思って、久々に電話をしました。
「実家に帰っているんですよ」
「そっか、地元じゃなかったんだね」
「結婚して引っ越して、離婚したあとも住み続けていただけだから、知り合いもそんなにいないし」
「いつこっちに戻るの?」
「もう戻らないですよ」
「エーッ!」
「全然状況がよくなりそうにないので、全部引き上げてしまいました。子どものことを考えると、もう戻れないですよね」
人に言わずに避難したのが多いので気づいていなかったのですが、原発事故のあと避難した人は思っていたよりもずっと多い。
大半はすでに戻って来ていますが、戻って来ないのもいます。
こうなると、急に会いたくなります。
「仕事はどうするの?」
「地元では風俗はやりたくないので、別の仕事を見つけようとも思っているけど、まだ探していない。私だけ東京に戻ることも考えたんだけど、何日も子どもの顔を見られないのは辛い。貯金も少しはあるし、実家にいれば食べていくことはできるから、しばらく様子を見ようかなと思っている」
「もったいないよね、風俗嬢としての能力が高いのに」
「自分でもそう思うけど、しょうがないですよね」
文 = まつざわくれいち/1958年生まれ。『エロスの原風景』(ポット出版)、『風俗お作法』(小社)など著書多数。
イラスト = 友沢ミミヨ