風俗取材に携わって10余年。ひたすら「エロ街道」を歩き続ける著者が、お店スタッフや女の子との交流を重ねて得た、風俗業に関するさまざまな知見をここに開陳。 まだまだ続く「メールの極意」。とはいうものの、今回はちょっと趣向を変えて、メールも電話も一切しないでNo.1をキープしていた雅ちゃんの思い出を綴る、いわば番外編です。
この店は夜ばいが売り物で、アイマスクをつけて女のコが待機しているんだが、鼻歌を歌いながら中に入っていったら、彼女はすぐに「あー、わかった」と言って笑った。
たいていのイメクラでそうであるように、ここのアイマスクは穴があいていて、うっすら見えるのだが、個室内は真っ暗なので、顔までは見えるはずがなく、鼻歌だけで私だとわかったらしい。店から「松沢が来る」と聞いていたかもしれないが、それでも嬉しい。
私は彼女のアイマスクを外した。
「やっぱりぃ」と彼女も嬉しそうに笑った。
「元気だったか」
「うん」
「こっちも元気だったか」と私はキャミソールをたくしあげて、下着の上からマ×コにキスした。
「もう、すぐそういうことをするんだから」
「だって、雅ちゃんはナメられるのが好きでしょ」
「上手な人は好きだよ」
私はベッドの上に乗り、下着をズラしてクンニをする。
「ンッ」と声を出して彼女はすぐに腰を動かし始めた。
「ダメだよ、感じちゃう」
「感じていいよ」
やがて彼女は「イッちゃう」と切ない声を出して、この時はすぐに体を痙攣させた。
「もうイカされちゃったよ」
「さ、帰るかな」
「ハハハハ、何しにきたの」
「雅ちゃんの顔を見にきたんじゃないか。時々雅ちゃんに会わないと気分が悪くなるからさ」
「もうー、うまいんだから」
「何言ってんだよ、現にこうやって来ているじゃないか。雅ちゃんのことが大嫌いで、二度と会いたくないと思っていたのに会いに来たと思うか」
「ありがとう」
「さあ、シャワーに行くか」
「あれ、まだシャワーを浴びてないの?」
この店は客が一人でシャワーを浴びてから夜這いをするか、いったん部屋に入ってから客が一人でシャワーを浴びるかなのだ。
彼女は私が先にシャワーを浴びてきたと思ったらしい。
「まだだよ。だって、オレ、服を来たままじゃないか」
シャワーを浴びてきた場合はバスタオル一枚なのである。
「あ、そうか。興奮していて気づかなかった」
本当は一人でシャワーを浴びるのがルールだが、彼女は一緒にシャワーを浴びてくれることになった。
彼女は私の体を洗いながら、こう聞いてきた。
「私のツボ、もう押さえられちゃったみたい?」
「うん、失敗なく確実にイカせられる自信がある。この間は時間がかかったけど、今日は早かったよね。だって、雅ちゃんのクリは大きくてなめやすいよ」とクリを指でつついた。
「ヤダー、でも、私をイカせられる人って、ほとんどいないよ。いつもは全部演技」
ベッドに戻って、再度彼女の大きなクリをナメてイカせた。
こうして彼女はすっかり私を信用してくれるようになって、雑誌やネット用に顔を隠して写真を撮らせてくれるようにもなった。
ところが、今年の春のこと。遂に引退することに。彼女はある仕事に就きたくて面接に行っているという話は聞いていたのだが、ある会社が採用してくれることになったのだ。もし採用になったら、東京にはいないことも多いため、休みの日にバイトで働きにくることはできず、完全に引退すると言っていたので、「ガンバレー」と応援しつつも、反面、「採用にならなければいいのに」とも願っていた。
彼女とは店を辞めても、友達づきあいができそうなのだが、アドレスも電話番号も教えてくれない。本当にそれっきりになる可能性が大だ。
最後の日は混むかと思い、その前の日に顔を見に行った。
「社長に聞いたんだけど、松沢さんはライターだったんだね」
最後の最後に気づいたらしい。
「今までなんだと思っていたんだ」
「わかんない」
「ん? だったら、なんでオレは写真を撮ったんだよ。普通の客に写真を撮らせたらダメだろ」
「社長と仲がいいし、松沢さんなら悪用しそうにないから大丈夫かと思ったんだよ」
「それに取材も申し込んだことがあったじゃないか」
「ああ、よく覚えてなかった」
ガードが堅いように見えて、不用心なところのあるコだ。
私はこの日も「連絡先を教えろよ」と迫った。
「絶対ダメ」
「道ばたでバッタリ会ったら無視するんだろ」
「無視はしないよー。お久しぶりって挨拶しますよ」
「またマ×コをナメさせろよ」
「イヤだよ、道ばたでなんて」
「石狩平野のどまん中の誰もいないところでバッタリ会ったらいいだろ」
「だったらいいかな」
「鳥取砂丘もいいだろ」
「いいよ」
「富士の樹海もいいだろ」
「イヤだよ、恐いよ。そんなところに一人で行かないって」
なんて最後の最後までバカ話をしてお別れした。
個室を出て社長に私はこう言った。
「どうせ戻ってくるでしょ、彼女は」
「だと思いますよ」と社長も同意。ホントに仕事を面白がっていたコですからね。
しかし、今度就職する会社は、彼女が本当に就きたがっていた仕事だから、そう簡単には辞めはしないだろう。それでも戻ってきて欲しいと私も社長も思っていた。私も社長も彼女のことが好きなんである。
このあと私は外に出たのだが、忘れ物をして店に戻ったら、雅ちゃんがフロントのところにいた。
「アー」と言って彼女は手を振る。
「さっき感動的な別れをしたところなのに、そんな明るい顔をしちゃダメだよ。元気でやれよ」
「うん、わかった」
手を振る雅ちゃんを目に焼き付けた。
のちにこの店の店長からこんな話を聞いた。
「彼女は本当にプロ意識が強かったんですよ。演技もできましたしね」
「んっ、そういうタイプか? オレはてっきりあれが素だと思っていた。だって、客としてじゃなく会っている時も、あんなカンジだったよ」
「それは松沢さんだからですよ」
たしかにもともと客として会ったわけじゃないから、今更演技はできなかったろう。
「どんなに嫌いな客の前でもいい顔をして、絶対満足させて帰すんですよ。だからお客さんの受けがバツグンにいいんですよね。ただ困るのは、お客さんが帰ったあとで、“今の客、次からNGにして”って言うんですよ。そういうのが連発して、うちの店の中ではNGの数が飛び抜けていたんです。お客さんは気に入ってまた指名してくるから、店泣かせでしたよ。でも、この1回だけで次回はないと思えるから、その時は全力でサービスできるんでしょうね」
そういうタイプだったのか。だからこそ、営業なんてしなくてもナンバーワンでいられたのだろう。電話番号もアドレスも教えず、営業をせずナンバーワンになるのであれば、それだけの努力をしなければならないってことでもある。
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