いつ運命の人と出会うんだろう
「おもしろかったのは、たまに『あとで5万払うから本番させてくれ』、とか、『月30万で愛人にならないか』なんて言って『だから本番させろ』なんて言うお客さんがたまにいること。本番したければそれ用のお店に行けばいいのに、ヘンですよね。もちろん断ります。『あとで』なんて言って、お金くれるわけないし。ただ、なんでそんな悲しい嘘をつくのかなって。そんなこと言わないでくれれば、こっちも『ばーか』なんて思わなくていいのに」
まゆみの一貫した態度なのだが、まゆみは決して男を馬鹿にしない。恨みもしない。悲しいと思うことはあっても、結局は許してしまう。なんだかそんな精神性を、私は彼女に感じた。
なんでも許してしまう。なんでも受け入れてしまう。そんなまゆみが体験した人数は100人を超える。淋病とカンジダに一度ずつなった。けれどまゆみはちっともすれていない。汚れた感じなんて全然しない。きっと16歳の初めての時から、まゆみは男の人に、同じ曇りない瞳を向け続けている。
「なんていうか、いつも恋が終りそうだなという時、必ず次が現れる。嫌だな、と思っていると、それは勝手にいなくなってくれる。そういうところはあって。自分がいけない部分もあると思いますけどね。超恋愛主義っていうか、いつもドキドキしていたくて。『いつ運命の人に出会うんだろう』って、ドキドキしている部分があって。多分それが、自分のいろんな体験を呼び寄せているんだと思いますけどね」
エロ業界にいた私を認めてくれる人と結婚したい
そんな彼女が望むことは「普通の結婚」だ。
「30歳くらいまでには結婚して、子供は3人欲しい。セックスは大切なコミュニケーションだから、相性は大切。お金はあるほうがいいですね。今までお金ない人とばかり、つきあってきたから。ひどくお金持ちじゃなくていいから、きちんと稼いでいる人がいい。それから、私がエロの仕事をしてきたことは、知ってもらったうえで、結婚したい。好きでしていたことなので、そんな自分を認めてくれる人でないと、幸せになれないと思うんで」
彼女は本当にいい奥さんになるんじゃないかと、私は思った。彼女は嘘がない。正直なだけなのだ。いくら立派な経歴で男性経験が少なくても、心の中は打算だらけの女なんて一杯いる。彼女は少なくとも、自分の値段を吊り上げるために、つまらない我慢なんてしていない。だから人をうらやむこともなく、男をいつも許し、こんなに真っすぐな瞳で嘘なく生きられるのじゃないだろうか。彼女は心の赴くままに流され、体験した。結婚したら、こんな女性こそ浮気なんてしないような気もする。
「自分が正しい生き方をしているとは思ってないです。エロ業界の仕事は、軽蔑されてる仕事だって知ってるし。でも、私はそれが好きなんですよね。解放される気がするっていうか。それに、思うんですけど、世の中には総理大臣になって人の上に立つ人ともいれば、私たちみたいに軽蔑を買いながらする仕事をする人もいる。でも、必要だから両方ある、両方とも社会の役割なんだと思うんです。尊敬される人も、軽蔑されたり軽んじられたりして生きる人も必要なんだろう、それぞれの役割なんだろうなって。エロな仕事好きだったから、やったことは後悔していません」
今。彼女は「エッチ系」の仕事はやめ、お花屋さんと、20歳の頃から続けているボランティアと、手芸にいそしんでいる。エッチの仕事はとりあえず「したくなくなったので、おやすみ」なのだそう。そうしたら「普通」の仕事がちっとも退屈でなくなった。エッチの仕事と同じように。
きっと彼女のそれぞれの顔はみんな彼女で、どれも本当なのだ。普通の人はどれか一つを演じようとしてそれ以外の自分を封じ込めてしまうけど、彼女はそれをしないだけ。AVギャルと熱心なボランティアが両立しないように、なぜ私たちは思ってしまうのだろう。一人の人がそんな多彩な顔を持っていることは、むしろ素晴らしいことなのに。
「もしよかったら、今度手芸の作品展するので見に来てください」彼女は言って、雑踏の中に消えていった。そうして人々の間に混じると、すぐに見分けがつかなくなってしまう。そんな普通の女の子だった。
(文中はすべて仮名です)
2003.11.7up