初めての恋愛
彼女はそんな土地と家族との暮らしを、どちらかというと嫌だと思っていたと言う。
高校を卒業したら、なんでもいいから仕事を見つけて、東京で暮らそうと決めていた。田舎の家はふすまと障子しか部屋の間仕切りがない。自分だけの空間など望むべくもなく、年頃の娘であった彼女には干渉が続く。それは当然のことなのだろうが、その最中では息苦しく、鬱陶しく思うのも無理からぬことだろう。これだけ快楽の情報があふれている時代だ。私自身が神奈川県の田舎で育ち、同じ思いで東京に出てきたから、彼女の言いたいことはよくわかった。私たちは親不孝な勝手者なのかもしれないけれど、普通に元気だったなら、やっぱり東京に行きたいと思ってしまうだろう。まして女の子が若くてきれいな時には。
真理子の初体験は17歳の時。相手は友達の紹介で知り合った社会人。19歳のサラリーマンで、金融関係の会社に勤めていると言った。詳しいことは知らない。顔はぱっとしないな、と思った。スーツを着ている彼を見て、ただ「会社員なんだ」と思っただけ。一回みんなでグループデートみたいなのをして、二人きりで会った時、つきあうようになるんだろうな、となんとなく納得していた。彼の名はマサル。家に遊びにおいでよと言われた時「ああ、するのかな」と思った。ただ彼の家は静岡で遠かったので、どうしたって泊まりになってしまう。けれどそれは案外簡単に実現した。親は厳しいことを言い、干渉するわりには、一貫性がなかった。「友達の所に泊まりに行く」と言っても、反対したり、連絡先を確かめたりしなかったのだ。穴だらけの網のような愛情。だから以後は毎週どこかでデートして、月に一度くらいのペースで彼の家に泊まりに行けた。外泊が続くと、たまに思い出したようにしかられた。
「同級生の男の子二人と三人で。片方の男の子の家に遊びに行ってたんです。気が合って、ほんとうにいい友達って感じで。お互いの彼氏彼女との体験とか、話すじゃないですか。ふざけて触りあいとかしているうちにだんだん盛り上がってきちゃって。で、三人でそのまま。嫌じゃなかった。二人とも綺麗な顔をしていてタイプだったし。二人に触られるのって、とっても気持ちよくって。断ったらもったいないって気持ちで」
マサルの家は静岡のとある市内の静かな住宅街の中にあった。駅から歩いて15分くらい。道中あまり喋った覚えはない。お互いにうつむいて、たまにマサルの言うことにあいづちだけ打っていたような気がする。
1Kのマサルのアパートの部屋にはビデオがたくさんあった。ダンボールが数個積み上げられて、みんなビデオが詰まっている。あとは雑誌と、パイプベッド。何着かのスーツが壁に吊るされていて、ステレオと、漫画雑誌と、ベッドの脇にコーヒーテーブルがあって、その上には『テレパル』が広げられていた。灰皿にはタバコの吸い殻が一杯だった。台所には多少の食器。押し入れの中にもビデオがたくさん入っていそうだな、と真理子は思った。ふと鮮やかな色彩が目の隅に映る。ダンボールのひとつの蓋が開いていて、その隙間から、紫色のヴァイブレーターと、ピンク色のローターがのぞいていた。「これ、どうしたの?」と聞くと「ああ、前の女と使った」とマサルは言った。嫌だとは思わなかった。むしろ興味をそそられた。そのうちそういうこともしてもらえるのかも、と思ったら、少しだけ股間がうずいた。
言われるがままにいろんなことを
今思うと変態の匂いがしてましたよね、と真理子は言う。
「ていうか、最初からマサルは言ってたんです。『俺、ロリコンだから』って。それであたしがいいって思ったって言って。初めてのその日は、そのまま部屋でまったりしてて、それでなんとなく。最初は変態的なことはなかった。普通に前戯されて、胸とか触られて、それから舐めて。敏感だねって言われて嬉しかった。それが30分くらい。それからマサルがズボンを脱いで、あ、思ったより大きい、と思った。入れられた時、多少は痛かったけど、我慢できないほどでもなかった。淡々と。ああしたなって感じで」