離婚をするまでは、随分いろんなアルバイトをした。けれども縫製工場以外は夫に内緒で。秘密のアルバイトの最初は、テレクラのサクラ。次にデリヘルのバイトをした。これなら夫にばれずに短時間で働ける。風俗をした理由のひとつは、「そういう仕事に偏見を持ちたくなかった」こと、もうひとつは「そういう業界に興味があった」こと。夫にもっと構われれば、しなかったかもしれないと真理子は付け足す。
そこの店では60分1万8千円。1万円が彼女の取り分だった。1時間1万円ならいいかな、と思ったと真理子は言う。そうしてお金を貯めて、彼女は離婚を切り出した。夫は晴天の霹靂のような反応をしたという。まさか上手くいっていないとは気づかなかったというような。
けれども彼女は離婚することができ、エステティシャンとしての職場を見つけることにも成功した。公の資格がなくても就職できる会社があったのだ。このまま地道に社内の資格試験にトライしていけば、管理職にもなれる。将来は管理職になるのが夢だ。
新しい体験、新しい自分を求めて
でも、今は彼がいないんだよね? と聞くと「そうなのぉ。でも遊び友達はたくさんいる」と真理ちゃんは言った。今はヤスヒロの紹介で知り合った男たちを渡り歩く日々。彼らとときどきカップル喫茶に行ってはスワッピングを楽しみ、そこからまた新しい出会いが広がっていくのだという。なんだか彼女は自分を燃やしてくれる、激しい男の出現を待っているように見えた。
一見淡々としているけど、激しいものがあるんでしょう? と聞くと、そう思う、と真理ちゃんは言った。
「今は、本当にいいパートナーと出会えるまで、たくさん冒険して、いろんな体験したいって感じ」
彼女が今まででもっとも体が合うと思ったのはヤスヒロなのだと言う。次が最初のマサル。いろんな体験をさせてくれる男を、彼女は求めている。別れた夫のように、いい人だけれども、セックスに関心のない人では、耐えられない。
「なんて言うか、いろんな新しい体験するとね、新しい自分を見つけた感じで嬉しいの。『あ、あたしこんなこともできちゃうんだ、ここまで感じることもできるんだ』って」
真理ちゃんは瞳を輝かせて言った。「それはセックスによって自分の中の潜在的なものが掘り起こされる感じ? それともセックスすることで自分が新しく変わって、人生も変わるような気がするってこと?」そう聞くと、真理ちゃんはしばらく考えて、「両方」と言った。「そんな気がするから、今はじっとしてられない」と。
そうして真理ちゃんはきっと明日も「冒険」をする。それは彼女の真剣な自分探し。もちろんただハードな体験をしたから人生が変わるってことはないだろう。セックスにはそんな幻想を与える力はあるけれど。でも真理ちゃんはハードさや人数を体験したいだけってわけじゃない。
「ハードっていうより、あたしに合った人? すごく好きになれて、セックスが合って、また結婚したいと思える人が出てくれば、遊ぶのは自然とやめると思う。ただ今はその時じゃないって思うだけ」
ほとんど命懸けともいえる情熱で、自分のセックスを開花させてくれる相手を探す真理ちゃんを、私はとても愛しく思った。写真を撮る時も、うふふ、恥ずかしいと言いながら、どんなお願いも聞いてくれる──。
彼女と別れて終電ぎりぎりの渋谷の駅に向かう途中、私は何度も心の中で彼女の言葉と笑顔をリプレイした。
「ああ、こんなこともできるんだ、と思うとね。新しい自分に生まれ変わった気がするの」
(文中はすべて仮名です)
2003.11.14up