たったひとつの秘密
「ただ、一つだけ秘密があって。病院に通っていたとき、それでも実家への仕送りは続けていたので、お金がとにかく必要で。3か月だけ、SMクラブで働いたんですよね。普通の仕事がしたかったけど、長時間働ける状態じゃないじゃないですか。お金も何十万かは必要だし。いろいろ考えたけど、背に腹は代えられないって感じでした。ただ、正直なところ、ああいう世界があるってことは、女にとっては救いだと思います。女だと社会では損なことが多いけど、どうしてもの『しのぎ』として稼がなくちゃいけないとき、本当に助かる。
働いているときは、『不思議なパラレルワールド』にいるって感じでした。絶対に表の世界には交わらないけど、常に表の世界の隣にある世界。裏からは表のことがいつも見えるのに、表の女からは、絶対に裏のことはわからない。マジックミラーみたいな世界だな、って思いました。SとMと両方やって。男の人があんまり可愛いんで、びっくりしました。微妙に罪悪感はあるんだけど、その場にいるときは、奇妙な楽しさがあった。
でも、今の彼には絶対知られたくないですね。大切にしたいからこそ、隠しておきたい。今の彼のこと、本当に愛してるんですよ。結婚したいなって。今度こそ、幸せになりたいの。
今は呉服屋さんに勤めてます。まだ実家に仕送りしたりはしてますけど、昔に比べたら、楽になってきたかな。あとは妹が元気になって、父も仕事を見つけられたらいい。私は……今の彼と結婚できたらいいなって思います。家族が仲良くて、好きな人と支え合っていけたら、一番幸せですね。それ以上は望まない。寂しいからっていろんな人と関係しても、もっと寂しくなるって経験したので、もう今の彼だけでいいって。心から思ってます」
そう言って、さゆりちゃんは帰って行った。私は感動で胸が一杯になった。はっきり言ってさゆりちゃんは苦労してる。でも、その苦労が微塵も顔に出ていない。それは、どんなときも彼女が純粋な心を失わなかったからだと思う。経験は女を汚したりしない。
汚れの経験がなくても、心が貧しい女はいっぱいいる。理由があって風俗に行かなくちゃならなかった子を軽蔑するような女が。そんな女たちの1000倍も、さゆりちゃんは『無垢』だ。それは彼女が、家族や恋人のために生きることを知っているからだと思う。
心が綺麗な人は、少しくらい苦労したって汚れない。それはみんなも同じだよ。てぃんくるな仕事をするとき、みんなもいろんな理由があってするんだと思う。水が合えば一生やってもいいし、やめたくなったらやめればいい。それはどっちも間違いじゃないと私は思う。ただ、どうしても理由があってそういう仕事をしなくちゃいけないときも、綺麗な心を忘れないでいようね。好きでやってるならなおさら。男の人や、家族のために頑張れる女の子が、未明は大好きです。さゆりちゃんも、みんなも、幸せになろうね。わたしもみんなに負けないように頑張る。そして幸せになろうと思うよ!!
(文中はすべて仮名です)
2004.1.9up